ガブラス×カイン

「お前の髪はきれいだ」
「…それはどうも」

気丈な振る舞いも素晴らしい。
にこりとさながら好青年のように笑った男に、カインはため息をつく。
理解不能な空間に贈りこまれて数時間。
目の前の彼が言うには、ここはハタ迷惑な神々の戦争に巻き込まれた者たちが迷いつく場所らしい。
さっさと帰りたいと願うが、出口はそう簡単に見つかってくれるようなものではないらしい。

「…帰りたい」

ぽつりと呟いた言葉はいつの間にか隣にいた男に聞かれてしまったらしい。
初めて眉をひそめたかと思えば、帰りたいなら帰ればいいさと不機嫌そうな声が返ってくる。
どうしてお前が苛立っているんだと返してやろうかと思ったが、カインはそれよりもと口を開く。

「勝手に帰れるんならとっくに帰っている。道がわからん」
「…は?」
「……なんだ」

ぽかんと間抜けに口を開く男に、カインは眉を寄せる。
くっくっくと楽しげな笑い声が聞こえたかと思えば、それは徐々に大きくなっていく。
ついに大声で笑い出した男に、カインは声を荒げた。

「何が可笑しい!?」
「いや、何も…」
「可笑しいから笑っているのだろうが!」
「そうか…道がわからんか」

なら、ずっとここにいればいいさ。
穏やかな声で囁かれれば、ぞわりと肩が震えた。
しかし、それは気味の悪いものでない。

「お前となら、地獄さえ極楽になれるだろうさ」



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