エクスデス×フリオニール
「サンドイッチ、作ってみたんだけどさ。あなたと一緒に食べようかなって。でもほんと、今気付いたんだけど、あなたって普通の食事はできるのか?」
「必要がない。試したこともないが」
「あ、それじゃあ記念すべき初体験を――」
「いらん。そのようなものを口にしたところで無になるだけだ、養分を得られなければ腹が膨れるものでもない」
「食事って、それだけのものじゃないと思うんだけどな。栄養摂取や空腹を満たすのも大事なことだけど、食事を通じての会話だとかさ――まあ、食事をしなきゃ会話ができないってわけでもないもんな。じゃあこれ、全部俺が食べちゃうからな。あとから欲しいって言っても遅いんだぞ」
豆を撒くように喋り倒す青年の隣で、エクスデスは慎ましく沈黙を保っている。いや、初めからこうだったわけではない。
『口を開けば無ばっかり!こんな訳の分からない世界でも――っていうか色んなものが入り乱れてる世界だからこそ、沢山の珍しいものとか、いろんな人の感情だとか、得難いものがそこら中に転がってるんだぞ!』
などと訳の分からない理屈を振りかざしあれやこれやとちょっかいを掛けてくる青年は、とかく人の話を聞かないのだ。なにか妙な使命感に取りつかれてしまっているのかもしれない。ああ言えばこう言う、まさにそれである。どれだけ邪魔だ、無駄だ、と言っても引きはしないので、いつしかエクスデスは折れてしまったのだ。
「なあ、寄りかかっていいか?ここまで走ってきたから、少し疲れてしまって」
「好きにするといい」
「ありがとう。よいしょっと」
エクスデスの足元に青年が腰を下ろす。厳めしい鎧に背中を預けた青年は早速バスケットを膝に置き、中から食料を取り出した。むしゃむしゃと、実においしそうに食べている。そんな姿に違和感を覚え、エクスデスは思わず声を上げた。地を這うように唸る声である、あからさまな不機嫌が滲んでいた。
「……貴様」
「ん、なんだ?」
「息一つ乱れておらんではないか」
「はは、ばれた?」
悪びれることなく微笑んだ青年は、上目でエクスデスを見つめている。どう見ても、疲れている様子などなかった。頬が赤らんでいるということはないし、息遣いも穏やかなものだ。そもそも少々の距離を走ったからと言って、鍛え抜かれた戦士であるこの青年が疲れを訴えるわけがない。
「甘えてるんだよ」
「無意味だ。私は貴様に還元するようなものなど、なにも持ち合わせてはおらん」
「いいんだよ。その内なにか、暖かなものがこの鎧の内側に芽生えた時にでも、ちょっとだけ俺にお裾分けしてくれれば、それでいい」
同じ言語を話している気がしない。青年の語り口はエクスデスにとって、いつだって果てしなく無意味で、無駄なものである。
ただ――跳ねる銀髪に覆われた小さな頭を、戯れに撫でてやるのも悪くはないと、本当に一瞬だけ、心の端っこの方にそんな衝動が走って行った。
無意味だ。青年の期待が実を結ぶことなどありえない。鎧の内側にはなにも「無い」。その筈である。
あんな感慨――いいや、気の迷いなど、とっくに無と化しているのだから。
エクスデスは青年に触れることなく、ただそこに立っている。青年はそれでも満足そうに、二つ目のサンドイッチを取り出した。
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