ティファ×フリオニール

「もうっ!ほんっとうに無茶ばっかりなんだから、フリオニールってば!」
「いいいたっ、痛いよティファ!も、もうちょっと優しくしてくれっ!」
「痛い思いをしたくなかったら、もう無茶なんてしないの!」
消毒薬を目一杯に染み込ませた脱脂綿を、血の滲む傷口に押し当てた。――ぐりぐりと。貴重な回復薬を使わなければならない程度の傷ではなかったが、精悍な顔を歪めて泣きそうな声すら上げているフリオニールを見ていると可哀想な気持ちも沸いてくる。けれど一つ傷が治りかけたらまた別の傷を作って戻ってくる彼にお灸を据えてやりたい気持ちもあって、今はそちらの気持ちの方が少しだけ大きいので手加減はしてあげないことにする。だから、ぐりぐり、と。
「……無茶をしているつもりはないんだけどなぁ」
「こんなに傷だらけなのに何を言ってるの。あ!こんなところにまで!」
「うぉっ!?」
頬の傷に消毒薬を染み込ませると、やっぱりフリオニールは大げさな声を上げて、情けない顔をする。そんな姿を見るたびに、私はこっそり胸を撫で下ろすのだ。
しょげたように眉尻を下げるフリオニールは、「ちゃんと」成人前の少年――から脱却を図ろうとしている青年の顔をしている。年齢相応の、微笑ましくて可愛らしい顔だった。けれど、沢山の武器を携えて敵陣へ切り込んでゆくフリオニールは。わたしを庇うようにして、敵の真正面へ踊り出したフリオニールは――
「なんだって消毒ってこんなにしみるんだろう……」
鬼気迫る横顔が脳裏を過ってゆく。慌てて頭の中から追い出して、救急セットの後片付けに取り掛かる。
わたしは酷いことをしているのだろう。日常の中にいるフリオニールだけがフリオニールなのだというように扱って、武器を取る彼を許容しきれていない、しないようにしてすらいるのかもしれない。それは真摯に戦いに臨む彼へ抱く感情として、果てしなく失礼なことで――言ってしまえば彼という人間自体を侮辱している、と取られても大げさなことではないように思う。
「消毒が必要になる怪我をしないようにしなさい、ってことよ」
世話焼きで、実はちょっぴり要領が悪くて、どこまでもひた向きな彼という人が好きだった。とても頑張っていると思う。他の誰にも引けを取っていない、と思う。でも彼が強くなればなるほどに、わたしは言いようのない不安に苛まれる。日常に棲む、柔らかく微笑んでくれる「フリオニール」という人が戦いに染まって消えてしまうのではないか。がむしゃらに突き進む彼が――なにかの拍子に、命を落としてしまうのではないか。そんなどうしようもない不安がもう暫く消えてくれない。
「ティファは厳しいなぁ」
「だって、ここの傷。やっとカサブタになったばかりだったのに、さっそく隣にこんな大きな傷を作って」
「ごめんな、せっかく消毒してくれたのに」
「……なんでフリオニールが謝るの」
「とても心配させてることを知ってるから。だから、ごめん」

もう無茶はしないよ、なんてことは言ってくれないのね。

本当にどうしようもない甘ったれが舌先を滑ってゆきそうだったので、慌てて唇を噛みしめた。強くなりたいと、そうやって努力を重ねている彼を引き留めていいわけがない。そんな資格を持った「他人」など、どの世界を探したって存在しやしないのだ。

「――さ、そろそろ戻ろうか!ティファは――ああよかった、怪我はないみたいだな。戻ったらすぐ食事にしよう。俺もうお腹ぺこぺこだよ」

当たり前でしょ、あなたが庇ってくれたんだから。

照れくさそうに笑う彼の後ろで、わたしは拳を握りしめた。彼が無茶を重ねて強くなろうっていうのなら、わたしも強くなればいい。彼を守れるくらい、強くなれたなら。そうすれば、減ってゆく一方の消毒薬も出番がなくなるのではないか。そうなればいいなと、強く思う。



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