ティファ×皇帝

甘い甘い香り。
誘われる。
鬱蒼と茂る長い深い森を突っ切った沼の辺に林檎の木があった。
一心不乱に追い求めた手足は傷だらけ。
ポロポロこぼれ落ちる真っ赤な血。
(馬鹿だわ、ケアルは使えないしポーションもない…)
後悔とともに見上げた木に実はなっていない。
森が開けて目に飛び込んだ落胆、現実を受け止めようと凝視する。
と、ひとつ疑問が浮かび上がった。
あのむせるような甘い香りはどこからやってきたのでしょう?

「娘、どうやってここに入ってきた」

こつんと落ちてきた問いに威圧感たっぷりの重低音がかぶさる。
咄嗟のファイティングポーズを見越して金色の男はこれまた金色の杖で構えた腕を強く打った。
後ろに飛び上がり体勢を整え、注意して神経を張り巡らせた周囲は罠の気配で溢れている。
冷たい汗がじわりと髪の生え際をぬらすティファに、男は相変わらず憮然とした態度を崩さない。

「何故ここへきた」
「…………林檎の香りがして…」
「…貴様にそれが嗅ぎ分けられるのか…ふむ、猶予をやろう、果実が熟す頃再び訪れるが良い」

言い放って男は、仰々しくマントを翻し立ち去った。
警戒心が切れてふにゃりと力を抜くティファの目に映る葉は青々と光に満ちている。
土色のガラス玉に濃い青緑が揺れている。
甘く、甘く、漂う果実の面影。
それはきっと金色の林檎だろう…うっとりと睫毛を振るわせ、青緑を閉じ込めた。 



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