ユウナ×WOL
title:王子様と呼ぶには無愛想な彼の、
「ウォーリアさん、私もう大丈夫だから…」
「駄目だ」
こんなやりとりを5分置きにやっているのは、ユウナとウォーリアオブライト。
ユウナはウォーリアに、俗に言うお姫様抱っこをされた状態で、聖域へと戻る道程を進んでいた。
暴君のイミテーションの罠でその機能を殆ど失ってしまったショートブーツはユウナの腕の中にあり、両足には包帯が巻かれている。
白魔法が使えるユウナならばこれくらい自分で治せるのだが、先の戦闘で今は魔力が底を付いている。
その前にジェクトとも逸れてしまっていたので、途方に暮れていた所に現れたウォーリアは魔法そのものが使えないのでエーテルは持ち合わせておらず、ポーションも使い切ってしまった後だった。
「聖域に戻れば誰かしら居るだろうし、ポーションもあるだろう」
と、言うウォーリアの言葉と共にユウナが彼に抱えられたのが今から一時間程前の話。
こんな所をイミーテションに襲われたらひとたまりもないし、そもそも歩く事にはそこまで支障はないから、降ろして貰おうとはするのだが…流石はブレない我等が光の戦士、一筋縄どころか縄が何本あっても無駄だろう。
「ウォーリアさん…」
「駄目だ」
………取り付く島もありません。
イミテーションに遭遇しない様にウォーリアは道を選び、時にユウナを抱えたまま森の中を走り、岩場を飛び、川を越えていく。
「足は痛むか?もう少しだ」
聖域が遠くに見え始める。
「大丈夫です」
ユウナは彼の胸に頭を預ける。とうに降ろして貰う事は諦めた。
彼の身を守っている甲冑が、酷く邪魔に感じる。
おかげで本来ある筈の温もりは何処にも感じられないし、兎に角固いのだ。
「……………」
見上げれば彼の顔はいつもの無表情。笑った所を誰も見た事がない。
「あ」
良く良く見ればその頬は砂で汚れていた。
ユウナは腕を伸ばして、手でそれを拭う。
「ユウナ?」
彼が立ち止まってこちらを見る。
「汚れてましたよ?」
自分の顔は自然と笑みの形になる。
「……気が付かなかった。有難う」
その時、ウォーリアが小さく笑った。
女の自分から見ても、綺麗な笑顔だった。
それが、ユウナが最初で最後に見た彼の笑顔だった。
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