ユウナ×フリオニール

置いて行かれてしまう。迷子になってしまう。――そういう根拠のない不安を、私を危険から守るように先を行く彼の背中を見るたびに感じている。
「足場が悪くなってきたな。ユウナ、大丈夫か?少しペース落とそうか?」
少し汚れたマントの上で、銀色の髪がひらりと軽やかに翻る。まるで空気の中を泳ぐ魚のようだった。綺麗だ、と思う。手触りを知りたいとも、それなりに長い間思っている。伸ばしかけた手はいつだって、あの髪に辿り着く随分手前で進行を諦めてしまうけれど。
振り返った彼は朗らかに笑っていた。私を元気付けようとしてくれているのが分かるので、そのこそばゆさに頬が熱くなる。
「ううん、大丈夫。フリオニールは、平気?」
「大丈夫だ、まだまだいける」
「本当に?」
「本当だよ。そんなに信用ないかな、俺」
「だって君、誰かに心配させてしまうのが嫌で、辛くても辛いって言わないところがあるから。たまにとても、この人は本当に「大丈夫」なのかなって心配になるんだよ」
「はは、本末転倒だな」
「でしょう」
「ユウナにそれ、言われちゃうなんてなぁ」
「私?どうして?」
「心配させるのが嫌なのは、ユウナも同じだろ」
思わず口を噤んでしまうと、彼は眉尻を下げてくたりと笑った。
「ごめん、ちょっと意地悪だったかな。心配――させてしまうのは、心苦しいけど。ユウナの気持ちは、嬉しかったよ。心配してくれてありがとう。でも俺は本当に、まだまだ平気だから」
「う――ううん。私こそごめんね。なんだか責めるみたいな言い方になってたね。そんなつもりは――」
なくは、なかった。今度こそ本格的に口を閉ざしてしまうと、やっぱり彼は困ったように笑って、髪を泳がせながら前を向く。疲れたら遠慮なく言ってくれ、なんて。私を甘やかす台詞を台本を読むように呟きながら。
これは本当に私から見た偏見でしかないのだけれど、私と彼はどこか、似ているんじゃないかと思ってる。使命感を帯びた夢があって(私は自分の夢をまだ思い出せていないけれど)、それを自分の力で叶えるために、ひたすら一歩でも前へと進みたがっている。けれど、そう簡単に上手くは行ってくれない。何度も何度も足踏みをして、足元の土はすっかり固くなってしまっていて――それでも諦める気なんか全くなくて、足踏みを繰り返しながら少しずつ進むのだ。記憶はなくても、自分がそういう人間だっていう認識は残ってる。彼については、これまでの付き合いを通してそう思うようになった。

けれど――結局私たちは違う人間で、ほら、出発地点からして性別が違ってる。だから元々の体力なんかも違っていて、こうしたちょっと無茶をした行軍なんかでは置いて行かれそうになっている。
このまま彼は、私の視力じゃ見通せないほど遠いところまで進んでしまうのだろうか。固くなった地面だけを、私の足元に置き去りに。

「――あ、あのっ、フリオニール!」

思いがけず力の籠ってしまった一歩を踏み出すと、柔らかな土に足の裏がめり込んだ。再び振り向いた彼は、大声に驚いてしまったのだろうか、子供のように目をぱちくりさせている。
「……ユウナ?どうしたんだ、やっぱり疲れてた?」
「違うの、私、まだまだ頑張れるよ。だけど――」
「うん、」
「……君の隣を、歩きたいな。そっちの方がもうちょっと頑張れるかも……なんて」
「そうなのか?」
「う、うん」
「そうか……はは、改めてこう、隣ってことになると。なんだか気恥ずかしいな。よし、じゃあこっちに来るといい。足元に気を付けるんだぞ」
どこか躊躇いがちに伸ばされた彼の左手。どきどきしながら握ってみると、それはやっぱり見たとおりに逞しい作りをしていた。けれど反対の手で頭を掻く彼の、照れていることがありありと分かる表情はなんだかとても、可愛らしい。
胸がいっぱいになって笑いかけると、彼の眉はまた困ったように垂れ下がってゆく。きっと私も同じような、照れを隠しきれない笑い方をしてるんだろう。お揃いだ、と思った。嬉しい、とも。



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