スコール×フリオニール
2012/12/10 22:45


話があるので夕食後に少し二人だけの時間が欲しい。
本題以前の、こんな一言だけの呼び出しに三日もの時間をかけてしまったわけではあるが、「ああ、それじゃああとでな」とフリオニールは軽く承諾してくれたので、少しばかりの肩透かしを食らいながらも怒涛のような安堵が体中を駆け抜けた。ここまでくればもう、あとは突き進むしかない。好きなのだと、呼び出しよりも遥かに短い一言をフリオニールに伝えるだけなのだ。
「――好きなんだ、あんたのことが」
呼び出すまでにかかった三日という時間はなんだったのか。本題はするすると舌先から滑り出し、真正面にたつ軽装のフリオニールは虚を突かれたように目を丸くしている。
俺からもう、これ以上言うことはない。人一倍真面目で、頑固で、なにやら要領が悪い所もあって。それでもひたむきに先へ先へと進んでゆくフリオニールへの好意を、そして偶にはこちらを振り返って寄りかかって欲しいと思うちょっとした欲望を「好きだ」の一言に込めてみたつもりなのだ、ありったけを。
フリオニールは、俺の告白を一体どう受け取ったのだろう。応えてくれれば嬉しい、しかし拒絶されてもそれはそれで仕方のないことだとも思う。あとからやってきた緊張感が、心臓を締め付けている。酷く苦しい。
そんな俺の内心などには全く気付いていない様子で、フリオニールはへにゃりと情けなく微笑んだ。垂れ下がった眉尻と、ほんのりと紅色に染まる頬。好きだ、と今度は心の中で呟いた。フリオニールの一挙一動は、いつだって甘い痺れを孕んだ切なさを胸の中に運んでくる。
「ええと、ありがとう。なんか改めてそういうこと言われると照れちゃうな。うん、俺もスコールのこと、好きだよ。すごく頼りにさせてもらってる。俺ってほら、頭に血が上るとちょっと周りが見えなくなることとかあるからさ。スコールのいつも冷静で、皆の行動に気を配れるところとか尊敬してるんだよ、とても」
違う、俺の「好き」はそういう好意じゃない。
でも大丈夫だ、まだ大丈夫。フリオニールが天然、というか少しばかり人の心の機微に疎いことなどとっくの前から知っているのだ、そういうところも好きだ、放っておけない。大丈夫だ、俺はまだ諦めていない、問題はない。
「それで、話ってそれだけ?」
「いや」
「どうしたんだ?なにか、言いにくいことでも」
「その、フリオニール」
「うん」
「俺の――」
……恋人、なってくれない、か?……なんだろう。恋人、という表現をひどく恥ずかしいもののように感じる。
「……いやその。俺と、付き合って、欲しい、というか」
「どこに?」
大丈夫だ、そんな反応も十分想定の範囲内だ。どこに、だって?そんなもの、答えは一つしかありえない。
「……スコール?」
衝動に突き動かされるように、フリオニールの手を取った。節くれだった両手はどちらとも冷えている。早くこんな話など終わらせて、暖かい場所へ連れて行ってやらなくてはならない。
困惑に揺れるフリオニールの、琥珀の双眸。赤味の増す頬に、ぽかりと半開きになった唇。どこか間の抜けた表情を愛しいと思う。
こんな、どこか頼りなくて、察しが悪くて、でもいてくれるだけで不思議な安堵を与えてくれるフリオニールと、俺は――
「どこまでも、だ」
「へ?」
「どこまでも行ける気がする、あんたとなら。だから――どこまでも、付き合ってほしい」
数秒。ぽかんとした顔で俺を見下ろしていたフリオニールは、突如尻尾髪を揺らして俯いた。
「それって、ずっと一緒にいたいって……そういうことで、あってるのか」
消え入りそうな語尾だった。小さく震える両手を握り締めて、大きく一度息を吸う。
大丈夫だ――大丈夫だ。
「あっている」
俯いた時と同じように、大仰な動作でフリオニールは顔を上げた。最早間が抜けた、を通り越して情けない顔になってしまっていて、こらえきれずに吹き出してしまう。するとどうしたことか、フリオニールも力が抜けたような吐息を漏らし、笑った。
「スコールのそんな変な顔、初めて見た」
「俺が?変な顔をしているのはあんただ」
「いや、スコールだよ。なんか、いいお湯に浸かって気が抜けてるときの顔に似てる」
どんなのだそれは、と問えば、ちょっと前に温泉を見つけた時に――と、フリオニールは過去の出来事を語り出す。楽しげなその横顔を見ていると、微かに沸いた苛立ちもどこかへ消えてしまうというのだからどうしようもない。だって、やはり愛しいと思ってしまうのだ。息をするついでのように好きだ、と呟いてみれば、フリオニールは話を切り上げて俺も、と吐息のような声で柔らかく囁いた。




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