暗闇の雲×皇帝
2012/11/11 13:46

異形の者が両の手を伸ばし形辿るその男もまた人間ではなかった。一度死に絶えた体は地獄の底で交わした悪魔に貰った入れ物に過ぎない。強欲に堕ちた魂は表面化する。
嗚呼それなのに妖魔はその手を離さなかった。

「腑抜けがここで死に絶えるのなら、わしが看取ろう」
介錯してやってもいい。
あれだけ生に焦がれた皇帝にでさえ、その言葉が甘く聞こえる。朦朧とする意識で自分の死がじわりじわりと近づいてくるのがわかっていた。また、私は死ぬのか。
何故勝てなかった?何故私は…

勇者たちが策士を追い詰めるのは時間の問題だった。いつの輪廻もカオスの戦士に直接指示を出しているのは皇帝であったのだから。カオスを倒す道にいつかはぶつかる壁で、宿敵フリオニールが前世の憎しみを思い出すのも時間の問題だった。
だからこれはお前の運命なのだと、暗闇の雲は宣う。あの戦士がお前を殺しに来るのは因果なのだから。
溢れた闇はいつか光が覆う。そしてまた世界は無くなり、静寂がくる。全てが消える。
それがこの世界にとっての秩序だった。

黙れ、叫ぼうと開けた口から血が零れ落ちる。もう声が出ない。喉からヒュウヒュウと言葉にならない音が漏れた。
暗闇の雲はゆっくりと皇帝の白い首に爪を立てた。押し潰せば、ゆるやかに流れていた血液の脈が狂ったように動きだす。
体温は最初から無かった。彼はもう既に死んでいるのだから当たり前なのかもしれない。暗闇の中で眠るように瞼を閉じるその男を、朽ち果てる世界の中で妖魔はずっと見ていた。



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