ティナ×WOL
2012/11/07 22:33
title:力
獣の咆哮が、木霊した。
イミテーションの大群の中に、二つの影あり。
一人は倒れた光の戦士。
身に纏った甲冑は罅割れ、冑は脱げ落ち、マントには僅かに火の気。
その身も所々は火傷を負い、頭部からは元の髪の色が判らなくなる程の出血があり、地面に血溜まりを作っていた。
それでも彼に息があるのは、光の加護の力か。
そんな彼の上に覆い被さり四つん這いになっているのは、獣。
鋭い目付きに、長い爪、逆立つ長い髪、剥き出しの牙。
眼から滴るは、血の涙。
だがその身体付きは華奢な少女。
―――――少女を庇った光の戦士。罠に捕らわれ吹き飛ぶ身体。そこに撃ち込まれる無数の銃弾。叩き付けられた先で炎が襲い掛かる。
「いやあああああああああああっ!」
少女の悲鳴が、木霊した。
その瞬間、身の内に秘めていた幻獣の血が、爆発した―――――
そして獣となった少女は、彼を守る様に覆い被さり今に至る。
唸る少女にイミテーションは襲い掛かろうと武器を構えた。
が、その瞬間、全てのイミテーションの動きが一斉に止まった。
獣の咆哮が、木霊した。
そしてそこに、無数の隕石が降り注ぐ。
凄まじい閃光、爆音、粉塵。
漸く晴れた中からは、二つの影。
一人は瀕死の重傷を負った光の戦士。
一人は涙を流しながらも回復魔法を唱える魔導の少女。
少女自身が施した防御魔法は、降り注いだ隕石から完璧に二人を守っていた。
「お願い、お願い…」
少女は祈る様に魔法を続ける。
「…消えないで」
また、その大きく優しい掌で頬を撫でて欲しいから。
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