皇帝×ティナ
2012/11/07 22:26
小鳥のさえずりと差し込む朝日。いつもならこれらのおかげで心地よく目覚めることができるのだが、今日アルティミシアの意識を眠りの底から引き上げたのは、響きわたる何者かの口論の音だった。
「なんですか朝から騒々しい」
「ミシア…皇帝が…プリン…私の…」
「貴様のものなら貴様のものだと名前なりなんなり書いておけばよかっただろう!」
「楽しみにしてたのに!ひどい!!」
「なっ…だいたい貴様はいつもいつも!」
皇帝がちゃんと確認しなかったのが悪いだの貴様が配慮を怠ったからだの、ああでもないこうでもないとギャーギャー言い争う騒音の元凶二人に、アルティミシアはため息をついた。
察するに、ティナが次の日のおやつにと冷蔵庫にいれておいたプリンを知らぬ間に皇帝に食べられていたということだろう。
ティナがここまで怒りをあらわにするのは初めて目にするし、声を荒げて他人を非難するような子ではないので、よほどそれが食べたかったとみえる。食べ物の恨みはおそろしい。
それにしたって皇帝が素直に謝れば事は丸く収まるのだが、なんせあの性格である。
根っからの支配者気質な彼が自らの非を認めて謝罪するなんて夢のまた夢というものだ。逆ならまだしも。
というか煩い私を間に挟んで喧嘩するなそもそも巻きこむな。
もはや悪口の応酬と化している二人の口喧嘩に、ついにアルティミシア(低血圧、そのうえ寝覚めは最悪)の堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減になさい!」
「皇帝、あなたいい歳して何の意地を張っているのです一言ごめんですむ話でしょう!」
「ティナも、プリンなんて後でまた買ってあげるから、こんなつまらないことでめそめそするのはやめなさい」
今度またうるさくして二度寝の邪魔をしようものなら逃れられぬ苦しみぶちかますわよ。
一喝して寝室へともどっていくアルティミシアの背中を呆然と見送っていたティナと皇帝は、先ほどまでののしりあっていたものの、共通の認識「寝起きのアルティミシアの機嫌を損ねてはいけない」を互いの目配せで確認した。
――翌日。
起き抜けのティナが机の上にみつけたものは、昨日口にできなかった例のプリンと、”悪かった”と走り書きされた小さなメモ。
「…遅いよ」
皇帝が起きてきたら真っ先に仲直りしようと心に決めて、ティナはプリンのふたを剥がしたのだった。
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