暗闇の雲×ティナ
2012/11/07 22:25
いとおしい。かわいらしい。あいくるしい。
それらすべての感情は本来、人ならざる暗闇の雲が持ちえないものだ。
が、つんつん、つんつんと魔物の指でつっつく対象に彼女が抱いている思いは紛れもなく、その類の何かである。
されるがままになっている相手――暗闇の雲好みの頬の柔らかさをもつティナは不思議そうにぱちくりとまばたきを繰り返すだけだが。
先程のティナの頬の感触をたよりに、自分の頬もそっくり同じに作り上げてみる。同じ温度、同じ手触り、同じ弾力、同じ色。
なのに何故だろう、ティナに触れるたび感じるあのむず痒い感覚はどうしても手に入らない。
「命あるもの、何時かは消え去る…その儚さゆえ愛するのかもしれぬ、な」
無には、終わりも、はじまりさえも存在しない。
ティナの長い睫毛に唇をそっと寄せれば、くすぐったそうに震えるそれ。
ひどく綺麗で、きっと自分には未来永劫手に入れることはできないだろうそれ。
これが幽玄の、有限の美というものか。
お返しにと降ってくるティナの唇を受け入れながら暗闇の雲はそんなことを考えた。
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