ガーランド×ヴァン
2012/10/28 20:21



 振り下ろした切っ先が触れる寸前、銃口から橙色の火花が噴き出した。咄嗟に仰け反ってかわすも、飛び散った銃弾が鎧を掠め甲高い音を立てる。こんな至近距離で撃ってくるとは、下手をすれば己が銃弾を浴びることになるというのに。まんまと間合いを離すことに成功した少年の薄ら笑いからは今の行動が計算尽くなのか、或いは当てずっぽうの短慮なのかは推し量れない。
 だが、面白い。
 戦士と呼ぶには拙い力量。生粋の戦士たちでは持ち得ない発想と小賢しい器用さ。独特の緩急が、永い闘争に些か飽いていた闘志を刺激する。

 力強く突き出した大剣は形を変え、長い鎖が蛇のように少年に襲いかかる。少年が横に跳ぶのを見計らい鎖分銅が更に激しく、水流を纏って追い詰める。またも少年は転がって避け、更に間合いを開けようと後退った。先程から一向に反撃に打って出ない様子に、俄かに苛立ちを覚える。
 こちらの優勢が覆ることはないだろう。だが少年が全力を出しているとも思えなかった。攻撃は最小限に抑え、この場から逃れることに専念している。何故だ、という思いを禁じ得ない。もっと、手の内が尽きる程に戦い、命を削る勝負に興じようではないか。この世界で、何が残るということもない。もっと、もっとだ。

「なあ」
 刃を交えてから初めて少年が声を発した。武器を振るう時の僅かな息遣いしか知らなかった耳に、その声は鮮烈に響く。
「もうやめようぜ、こんなの」
 言わんとするところが瞬時には理解できず、動きを止めて少年を凝視した。今更ながら相対する者の幼さに、躍起になって戦う己が滑稽に思えた。
「どんなに戦ったって、あんたにオレの気持ちはわからないんだからさ」
 それは拒絶というのだと胸の内で嗤う。言葉を尽くそうと身体を重ねようと、結局真実を手に入れることなどできはしない。お互いの命を奪い合う瞬間だけ、その深淵に触れたような錯覚が得られるのだ。

 少年は無知を装ってあどけなく首を傾げている。

 さあ早くその本性を寄越せと、得物を掲げて一気に踏み込んだ。





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