ヴァン×フリオニール
2012/10/28 20:16


「なあフリオニール、あれ取って、あれ」
「ん」
「さんきゅー」
剣の手入れに使用するオイルを手渡したところで、うっすらと過っていった違和感にフリオニールは首を傾げた。この夕暮れも普段とそう変わりはない、幾度となく過ごしてきた「日常」のはずである。日が落ち切らないうちに武器の手入れ、扱う武器が多いものだから仲間たちから少々距離を取って、開けた場所で。
そして隣には、同じく四方に武器を広げたヴァンがいる。
昨日、は夜遅くまで探索に当たっていたので顔を合わせたのは眠る直前になるのだが、つい一昨日は今とそう変わりはない情景の中に身を置いていた記憶があった。その前も、幾度も、幾度も。一つの状況を律儀にリプレイし続けるような形で、フリオニールは一日の終わりを過ごしている。
隣で黙々と武器を磨くヴァンとともに。
「あのさ」
「ん、どした?」
「なんで俺、お前のいう「あれ」が分かったんだろう?」
「うーん?いや、そりゃあさ、毎日毎日一緒にこうしてるからじゃないの?」
「昨日は一緒じゃなかったぞ」
「そうだっけ?……いや、一緒じゃなかったっけ?あれ、記憶ごっちゃになってる?」
おっかしーなー、と頭を掻くヴァンの隣で、フリオニールはぼんやりと思いを巡らせる。斧を磨く片手間の思考であるので、あくまでぼんやり、と。
よくよく思い返してみれば、このところは大抵視界の端にヴァンの姿がちらついているような気がする。二人の時間だと認識しているこの夕暮れ以外でも、敵と剣を交えている時や、未開の世界を探索している時、食事の最中や休憩時間などの日常風景にも、ヴァンの姿は当たり前のように視界の網に引っ掛かっていた。必ずしも隣り合っているわけではない。ただ必ず、それに準ずる距離にはいたのだ、お互いに。
「ていうか、それがどうしたんだ?今更じゃない?そんなの。お前も「あれ」とか「それ」とかよく言うし、俺も何欲しいのかってのは大体分かるつもりだぜ」
当たり前のようにそんなことを言うヴァンにとって、指示語で通じ合えることは本当に、当たり前の事なのだろう。フリオニールが隣にいることもきっと、今更疑問を抱くことでもないのだろう。当たり前に、ヴァンはフリオニールのそばにいる。
気恥ずかしさや嬉しさが沸いてきて、しかしそんなことで喜んでいる自分をどうにも女々しく感じて、フリオニールは赤面したまま眉を寄せた。今度はヴァンが首を傾げる番だった。
「なんか器用なことしてるなぁ」
「だってそれは、ヴァンが」
「俺がなんだって?」
「……別に、なんでもないよ」
「気になるだろ、言っちゃえよ。俺らの仲だろー?」
「やだよ、恥ずかしい」
「や、恥ずかしがってることは分かってるんだって。そっから先」
「だから恥ずかしいから嫌だって言ってるだろ、それくらい分かるだろ!」
「えー?だからなんで照れてるか分かんないから聞いてるんだって――」
本当は何もかも分かった上で、問い詰めるような真似をしているのではないか。そんな疑惑を抱いて、フリオニールはすわった目でヴァンを見る。ヴァンは、困った顔をしているようにも笑いを堪えているようにも見えた。分からない。ヴァンの本心を見通せない。それはきっと――ヴァンにとっても、同じことなのだろう。
この微妙な垣根も、いつかは崩壊してしまうのだろうか。その時自分は、ヴァンにどのような感情を抱いているのだろう。気恥ずかしさが怒涛のようにやってくる。いよいよフリオニールが膝に額を押し当てると、ヴァンははっきり困惑していると分かる声音でフリオニールの名を呼んだ。




prev | next


「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -