アルティミシア×WOL
2012/10/24 22:01
title:本当に欲しいのは
私の騎士は、私の闇を照らす光の戦士。
私の魔女は、私の光を欲した時の魔女。
「踊ってくれませんか?」
彼女が気まぐれを起こすのはいつもの事だ。赤いルージュを引いた唇を笑みの形に歪めて。
「私は舞踏をした事がない」
戦いの円舞なら誰にも負けない光の戦士は、女心が判っていない様な言葉を紡ぐ。
「君の足を踏んで仕舞うのが落ちだろう」
強請る様に身を寄せて戦士の頬に触れている彼女は、自棄に上機嫌で妖艶だ。
「あら、それは困りますね…」
おかしそうに口を手の甲で抑えて笑う魔女。
「時間圧縮の中で私はずっと貴方と踊っていたいのに」
「それは困る。私は未来を君と生きたいのだが」
即答する光の戦士。
「私には、未来なんて必要ないんです」
彼のマントを握り締める魔女。マントに深い皺が寄る。
「私には未来が要る。過去がない私には余計に」
「過去の苦しみがない貴方に、私の苦痛は判らない」
妖艶な笑みはいつしか、苦痛に満ちた表情に。
「だからこそ未来に君を連れて行きたい」
光の戦士は魔女の手を取り、その手を頬に寄せる。
「そこで君と踊ろう。足を踏まない様に、ゆっくりと」
真っ直ぐな眼が、魔女を射抜く。
「時と共に癒える傷もある。時と共にある幸せもある。多くの可能性の先に、君を連れて行きたい」
眼を見開き、驚く魔女の表情は徐々にまた苦痛に。頬に当ててある手が、光の戦士の掌を擦り抜ける。
「儚い、約束ね…」
「儚いものかもしれないが…だが、それを約束を何があっても守り通そうとする心は、強いだろう」
逞しい腕が彼女を抱き締める。
それでも彼女は彼の腕の中で思うのだ。
今、この瞬間を、停めてしまいたいと。
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