皇帝×シャントット
2012/10/21 20:54
珍しい姿を見かけて皇帝は目を細めた。
「これはこれは暴虐の淑女、我が城に何用か」
シャントットは面倒そうにこちらを振り向いた。
繰り返される戦場にて、彼女には何度も辛酸を嘗めさせられたどころか飲み込まされてきたが、当の本人はその気なく忘れてしまうのだからしようのない。
ガブラスはそれに甚く傷付いていたが下らない。自分が負けた記憶などどこにも残らないほうがいいだろうに。
そういえば、このパンデモニウムに繋がる入り口のほとんどに仕掛けておいた罠はどうしたのだろう。彼女がここに来るまでその報告がなかった。……いや、考えるまでもないことだ。
「センスの欠片もないあだ名をどうもありがとう」
ツン、とその小さな黒い鼻先を上向けて、彼女はそのまま行ってしまおうとする。
皇帝は大袈裟に肩を落として見せた。もちろんニヤニヤとした笑みはそのままだが。
「随分つれない態度だなシャントット。……イミテーションの源体でもって歓待してやろうと考えたが」
玉座の上で片肘着くと、彼女はやっと興味を示したらしく近付いてきた。
小さい背丈ながら込められた魔力は一級品で、それを隠すこともしない。
その反らされた胸に小さな愛着を見出しながら、皇帝はさて、と考える。
イミテーションの源体は、もちろん嘘だ。そんなものがあるならば、まさか他人に情報は漏らさない。
今はその嘘がばれないようになんとかシャントットの意識を惹きつけて、彼女の叡智を言葉の上からでも吸収する作戦を考えるのだ。
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