ジタン×暗闇の雲
*ちょっと痛い
血と土に汚れたジタンの体を、暗闇の雲は膝に抱き上げた。ジタンをここまで傷付けたのも彼女であったが、畳んだ足を地につけてまで彼の体を持ち上げた動きに、粗雑さはなかった。
ジタンは、痛みと疲労に朦朧としているのだろう。虚ろな目で暗闇の雲を見上げている。もう戦うことを諦めたのか、覇気は無い。
暗闇の雲は、ジタンの前髪を除けて、幼い額を撫でた。
「もう、仕舞いか」
ぽつり、落とす雲の唇も端が裂けていた。あいにく雲には血という気の利いたものは流れていない。ただ空虚な穴が、赤い唇の端に開いている。
ジタンはしゃがれた声で、答えた。
「ああ、諦めて、いいか……」
暗闇の雲が、頷くより先に、ジタンは目を閉じて、息を吐き出していた。
奇妙なことに、彼からは安堵の気配が感じられた。
これから、死ぬのに。
どう考えても殺される状況であるのに、暗闇の雲の膝に体重を委ねたジタンは、微笑んですらいた。
この少年は、自分にどれだけ、何を強いていたのだろうと、雲は想像しようとした。無理だとは分かっているのだが。
聞いて見ようにも、それが何より酷なのではと予想する。このまま優しい無に帰してやるのが、一番の慰めだろう。
しかし、暗闇の雲は眩しい気配を感じて、ジタンの体を地面に下ろした。ジタンの仲間たちが、すぐそこまで、迫ってきているようだった。
現実は暗闇の雲よりも遥かに情け容赦ない。そうと自覚しない未来が、彼を離しはしないのだ。
奪い損ねたな。
そう言って笑い、その場を去る暗闇の雲の背を見つめていたジタンの瞳が哀れなことを、彼女は知らない。
捨てられた子供の顔をしていたことを、知らない。
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