WOL×バッツ
無邪気とは
「ほらWOL、早く早く!!
急がないと間に合わなくなっちまう!!」
ある日、バッツはWOLを連れてとある地域へと向かっていた。
「待つんだ、バッツ
何が目的かは知らないが、そんなに慌てる事は無いのでは……」
「そんな悠長な事言っる暇は無いんだよ!!
良いからほら、走る走る!!」
バッツに手を引かれ急かされ、WOLは彼と歩幅を合わせ走る。
先に進むにつれ、辺りの空気は冷やされ気温が下がっている事が地肌で感じ取れる。
とはいえ今、二人はいつもの衣装ではない。
バッツは長袖の、WOLは鎧姿ではなく動きやすい暖かめの衣服を身にまとっている。
風邪をひく心配は無いなとWOLが考えているうちに、どうやら目的地に着いたらしくバッツが足を止めた。
バッツを少し追い抜かしながらも、WOLは何とか踏み止まる。
「着いたぜ、WOL
見てみろよこれ!!」
そう言ってバッツが指さした方へ視線を移すと、WOLの視界に入ってきたのは無限に広がる白。
辺り一面が、雪に覆われていた。
「これは……」
「な?スッゲーだろ!?」
太陽の光りに照らされキラキラと輝く雪に、同じ様に瞳をキラキラと輝かせバッツはWOLの言葉を待つ。
おそらく同調してくれる事を望んでいるのだろうが、とりあえずWOLは思った事を素直に口にした。
「いつも見ている雪と、何ら変わりがない気がするのだが……」
「だー!!全然わかってない!!」
ビシッとWOLの前に縦にした指を突きつけ、バッツは説明を始める。
「良いかWOL、よく考えてみろ
この辺りって、最近俺達がカオスの奴等とかイミテーションとかとドンパチした場所だろ?」
「そうだな」
「で、だ……昨日、目茶苦茶雪が降ってただろ?」
「あぁ……拠点のテントが重みに潰れていたな」
「そして今、ここにいるのは俺とWOLだけだ
他の奴が先に来た様子もイミテーションが通っていた雰囲気も無い」
「…………?」
未だ相手の言いたい事がわからず首を傾げるWOLに、チッチッチと指を振りバッツはニカッと笑って言った。
「つまり……俺達がここに一番乗りって事さ!!」
ここまで言われて、ようやくWOLは彼が伝えたかった意志を理解しなるほどと頷いた。
「という訳で、一番乗り記念……おりゃーっ!!」
バッツは大きな声を上げ、勢い良く雪の絨毯へとダイブした。
バフッとくぐもった音が鳴り、バッツの前半分が雪に埋まる。
そのまましばらく彼は動かず、WOLはどうしたのかと心配になり手を伸ばしたその時。
「ぶっはぁ!!」
ボフッと雪から上半身を起こし、バッツは大きく息を吸う。
「ヤッベー!!冷てぇー!!
でも楽しいー!!」
「………………」
一人楽しげにはしゃぐバッツに、WOLはとりあえず出した手を引っ込めようとした。
だが、すぐにバッツに捕まれてしまった。
「どうしたんだ、バッツ」
「どうもこうも無いって
WOLもほら……せーの!!」
「な……っ!!」
グイッと捕まれた腕を引っ張られ、WOLは体勢を崩し彼と同じ様に前方に倒れた。
ボフッと味気ない音が鳴り、WOLの身体もまた雪に埋まった。
「……バッツ……」
「これでお揃いだな」
無表情のまま起き上がり低い声で呼びかけるも、大して気にした様子も無くバッツはWOLに笑いかけた。
「………………」
バッツの悪びれない言葉に、WOLはしばらく無言で彼を見続けていたが……
「……そうだな」
やがてフッと自身も笑い、WOLはゆっくりと立ち上がった。
「だが、そのままでいる事は好ましくない
風邪をひいてしまうかもしれないからな」
そう言ってWOLは手を差し出し、バッツはその手を掴み立ち上がった。
「わかってるよ
だから、ここからは別の遊び方をするぜ」
バッツはしゃがみ込み小さな雪玉を作り、そしてそれを転がしてドンドン大きくしていく。
おそらく、雪だるまを作ろうとしているのだろう。
やがて立って転がせる程の大きさになった雪玉を、バッツは騒ぎながらあちらこちらにと転がす。
無邪気にはしゃぐ彼を見てWOLはふと、微かに記憶が蘇る。
かつて宿敵ガーランドは仕えるべき国の王女に恋心を抱き、思い余って彼女をさらった事がある。
自分はその振る舞いを愚かしい行為だと強く批判し、彼の行動を止めるべく奮闘したものなのだが……
(ガーランドが姫に対し無体を働いてしまった気持ちが、少しわかったかもしれないな……)
いっそ自分もこのまま、何もかもを捨てる覚悟で彼をさらい二人きりになってしまおうか。
そんな光の戦士にあるまじき感情を抱いてしまい、WOLはフルフルと邪な考えを振り払った。
「WOL、何してんだよ!!
一緒に雪だるま作ろうぜ?」
不意に呼びかけられ、WOLは顔を上げた。
見れば手をブンブンと振るバッツの横で、大きな雪玉が出来上がっていた。
「今、行こう」
WOLは先程のバッツと同じ様に小さな雪玉を作り、そして徐々に大きくしていく。
完成を楽しみにしている、愛しい彼の為に。
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