バッツ×ガーランド

あいのこくはく


「なぁ、スキって10回言ってみてくれよっ」
「……」

能天気な風を纏う青年は仲間の武器である剣を片手に、ガーランドの重厚な一撃を受け止めながら笑う。
ぐいっと近付く顔は何とも楽しそうだ。
現在の状況を理解しているのだろうか、ガーランドは片手に灼熱の炎を生み出すと近距離から容赦無く解き放つ。
やべっ、一瞬にして引きつった顔は、身軽に背後へ一回転しながら取り出した次の武器により隠された。
歴代の秩序の戦士の中でも厄介な部類に入る、召喚士の娘の力を拝借したバッツは喚び出したイフリートによりガーランドの炎を掻き消す。
生じた揺らめきの隙間から垣間見えたバッツの鋭い眼差しと貪欲な笑み。
それを向けられた唯一であるガーランドは、ぞくり、背筋が震えた。

対峙するこの場は戦場であり、殺し合いの会場だ。
普段はお調子者であるバッツも見物人がいなければ其れを裏側へ隠し、冷徹な面を見せる事がある。
ガーランドは彼の、彼らしく無いその面を気に入っていた。
引き出してやるには真剣勝負が手っ取り早い。
変形剣を握り直し、さぁ、次はどの手で攻めてやろうか。
揺らめきが途絶えた瞬間、大地を踏み締める。

「じゃあ1回でいいから!なっ!」
「まだ言っとるんか貴様は!」

いつもの能天気顔に戻ってしまったバッツは剣を消し去り、拝むように両手を合わせていた。ガーランドの闘争心ぶち壊しである。

「1回言ってくれたら真面目に戦うよ!」
「何を戯けた事をっ」
「どわっ!」

斧へと形を変えた剣で容赦無く襲う。頭上から振り上げた其れは空振りに終わり、大地へ食い込む。
素早く避けたバッツは武器を引っ込めたまま膨れた。

「言わなきゃ戦わねーぞ!」
「ぐっ…」
「しかも、二度とな!」
「小癪な…っ」

びしっと指されたガーランドは食い込んだままの柄に肘を預ける。
いいようにされている気がしなくもないが、さっさと再開したい思いが勝る。
しかしそれは罠か計略の一端か。
掛かるのも悪くない、そんな思考にさせてしまう彼を恨みながら、鎧兜の中で溜め息を吐いた。

「すきだ」
「はわっ…!」

ガラじゃ無い言葉をさらっと吐き出し、よし再開だと斧の柄を握り直す。
見上げた視界が陰った。
両手を広げ恐ろしい跳躍力でジャンプをしたバッツの、瞳の中は星三つが輝いている。
うげっ、と一歩引いたガーランドは無意識に右手を握り締めていた。準備万端。

「おれもー!!」

飛び付いてきた無邪気な二十歳に無慈悲な鉄拳を喰らわせた事は言うまでもない。



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