バッツ×暗闇の雲
ちょっかいかけてやろうとした暗闇の雲の波動球を止めたのは快活な大音量。
「ストーォップ!!」
睨み上げて来た丸い目の持ち主は、コスモス陣営の旅人だ。
彼は草原に座って何やらごそごそしていた。あんまり無防備なものだから、親切にも攻撃してやろうと思ったのに、と暗闇の雲は高めた魔力を落ち着かせた。
その様子に満足したらしく、バッツの目から険がとれる。そのままちょいちょいとて招いてくるので、暗闇の雲は彼の前に着地した。
「何をしておる?」
「ふっふーん、イイコト!」
言いながらバッツは手に持っていた花を見せてきた。片腕には、その花たちで作ったらしい花輪が幾つか填まっている。
そのうち二つを外して、バッツは暗闇の雲の触手たちの頭に載せた。
「お、ぴったりじゃん!」
触手たちはいきなりの感触に多少驚いたようだったが、気に入ったのか、競うようにして雲に向かって見せてくる。
雲は分かった分かったと彼らをたしなめた。
「似合っておるわ」
「じゃあ暗闇の雲は後ろ向いて」
「ばっくあたっくか」
「違うよ」
違っていいものなのか敵なのにと思わないでもない暗闇の雲だったが、バッツが何をやらかすのか気になるので従う。
バッツのご機嫌な気配はそのままで、敵なのに、と考えるのは馬鹿らしい。
「でかいなー雲は」
「カオスだからな」
「迫力重視?でも、今は座って」
言われるがまま、暗闇の雲は草の上にぺたりと座った。バッツが、おっ、と楽しそうな声を出す。
「その座り方可愛いなー」
「なんだそれは」
暗闇の雲としては、以前アルティミシアに教わった、おんなのこずわりを実施してみただけだ。足の側面から尻が全部地面にくっつく座り方。他に知らないし。
するとバッツの指が、髪をすいてくる。
「何をする気だ」
「出来てからのおったのしみー」
鼻歌を歌いながら、バッツは暗闇の雲の髪をごそごそし出す。
不思議な感触に暗闇の雲は振り返ろうとしたがまたもストップがかかる。大人しくしているが、飽きたらまた波動球を作るつもりだ。
「まだか?」
「雲のせっかちぃ」
言いながらも存外手早く、ことを終えたらしい。バッツのはい、おしまい、の宣言は、暗闇の雲が触手たちの花輪を整えている最中にされた。
そして渡されたのは、歪な鏡。
「何をしたのだ」
「鏡見てみろって」
覗き込んで見ると、見つめ返してくるのは自分。当たり前だ。しかしいつもと違うのが、頭。丁寧に編み込まれた側面には紫と桃色と薄い黄色と白い花が生けられている。
そのせいなのか、顔立ちも知らないもののように見えた。ただの、良くできた顔の、人間の、女のような。仄かに漂う花の甘い匂いが、それを助長する。
「うーん上出来!可愛いぞ暗闇の雲!」
前に回り込んできたバッツが、ご満悦と大きく頷く。
暗闇の雲はじっと鏡の中の女を見ていた。女もこちらを見ていた。
不思議だ。けど、悪く、ないような。
暗闇の雲は鏡を返して立ち上がった。
「帰るぞ」
「おう、付き合ってくれてありがとな!」
ニコニコとするバッツには、暗闇の雲がすぐ帰ろうとする理由は、分からないだろう。
これから戦って、この髪を崩すのが勿体無いと思っているとは、想像しないだろう。
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