カイン×バッツ
愛しい貴方に贈る言葉
冷たい風が吹き荒れる乾いた大地に、天高くから一人竜騎士が降り立った。
その傍らには、一人の青年が抱えられている。
青年は気を失っているのか、身動き一つとる様子もない。
「……………」
竜騎士は何も語らず、青年を抱えたまま歩き出す。
やがてたどり着いた場所は、とても寂しげな所だった。
空は曇っており太陽は隠され、昼間にも関わらず辺りは薄暗い。
竜騎士は一度立ち止まり、今自分が抱えている青年を見つめた。
彼は、かつて自分と共に戦っていた仲間。
とある理由により、竜騎士は彼等をまるで裏切る様な行動を取っていた。
もし彼が目覚めて自分の事を覚えていたとしても、きっと彼は自分の事を許してはくれないだろう。
だが、それで良いと竜騎士は首を振った。
それ程の事をしている自覚はあった。
自分は酷い事をしている、だがこれは必要な行為なのだ。
彼等が、未来を切り開く為の必要な犠牲。
その為にならば、自分はどの様になっても……
「おい、カイン……」
ふと、自分の名前を呼ばれ竜騎士――カインは周囲を見回した。
だが辺りには誰もおらず、カインはまさかと思い視線を下げるといつの間に目を覚ましたのか青年がこちらを見つめていた。
「バッツ……いつから……」
「いつだって良いだろ?
それより、下ろせよ」
強い口調で言われ、カインは一旦彼を地面に下ろした。
バッツと呼ばれた青年は、肩に手を当てコキッコキッと軽く鳴らしキョロキョロと辺りを見渡した。
「ここってどのへんなんだ?
さっきいた場所からは離れてるのか?」
「……あぁ……大分な……」
「そっか……」
それだけ聞くと、バッツはクルリと身体を捻りカインに視線を移した。
「カイン……俺が言いたい事、わかるよな?」
「……弁論はしない
腹が立つなら、殴り飛ばしてもらって構わない」
「良いよ、別に
俺そういうの好きじゃないし」
それだけ言うとバッツは彼に背を向け、その場を去ろうと歩き出した。
「待て」
だがカインは彼に制止の言葉をかけ、武器を構えた。
バッツは振り返る事はしなかったが、立ち止まった。
おそらく重い金属音が聞こえ、こちらが何をしようとしているのか悟ったのだろう。
「……カイン……
俺はお前を信じてるし、疑うつもりはないよ
でもさ、何でこんな事やってるのか理由ぐらい言ってくれても良いんじゃないか?」
「……悪いが、それはできない
お前達は何も知らないまま、先にいってくれ」
「達……って事は、俺以外の奴にもこんな事やってんのか?
お前嫌われるぜ?」
バッツの呆れた様子の声に、カインは何も答えない。
「……わかったよ」
これ以上自分が何を言っても無駄だと思ったのか、バッツは振り返り左右の腕をまるで彼を迎え入れる様に広げた。
「バッツ……?」
彼の意図が理解できず、カインは戸惑いの表情を浮かべる。
「カイン……やれよ
その為に、俺をここに連れて来たんだろう?」
バッツの言葉に、カインは目を見開いた。
「何を…言って……」
「さっき言ったろ?
俺はカインを信じている
いきなり俺をぶん殴って気絶させたのもここに連れて来たのも、今武器を向けている事も……他の奴を手にかけた事も
そして理由が話せない事も……全部俺達の事を思ってなんだろ?
だったら、俺が手伝える事っていったらこれしか無いじゃん」
「……………」
何処か悲しげな表情でこちらを見返してくるバッツに、カインは思わず全てを語りたい衝動に駆られた。
だが一度固めた決心を変えるつもりはないらしく、カインは武器を構え直しバッツを見据えた。
「……すまない」
「良いよ
あ、でも一つだけ言っとくな
……あんまり無理はすんなよ」
良いと言いながらも、バッツは語り続ける。
もしかしたら、自分の声が届くのではないかと期待して。
「このやり方が辛いと思ったら、助けを求めて良いからな?
一人でできる事なんて、限られてるから……だから……」
「忠告、感謝する」
だがカインはこれ以上聞きたくないとでもいうかの様に、槍の先をバッツに向けた。
それを見て、あぁ俺じゃ彼を説得できなかったと表情には出さないもののバッツは落胆した。
迫り来る凶器の音に、バッツは目を閉じた。
どうかこの言葉の意味が彼に届いています様にと願いつつ、彼の身体は地に伏せた。
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