ガーランド×ティーダ

新しい戦士が来た。異様に存在が儚い戦士だった。過去にこんな戦士は……秩序の戦士ならば何人かいたが……混沌の戦士には、あまりいなかったように思う。なにしろ混沌の戦士たちは、殺しても死なないような奴らばかりだ。地獄帰りだとか、神を食っただとか、一筋縄ではいかない存在しかいない。

「……夢想、」

夢を見る……か。
なるほど儚いわけだ。夢から覚めるだけで消える。

「皮肉な名をつけられたものだな」
「何も覚えてないから、何が皮肉なのか全然わかんねえけど」

困ったように答えた夢想を哀れんで、私はひとつ餞別を渡してやった。

「なにこれ?」
「ポーション……怪我の治療薬だ。それがあれば多少は戦えるだろう」

存在も儚い上、今は大した力も記憶もない。大して長くは保つまいと、安易に予想がついた。召喚された理由もわからぬままに消えるのだろう。
……だが、それではあまりにもつまらないではないか。せめて一度でも……戦い、嘆き、散るべきだ。戦いの輪廻に喚ばれたのだ、戦いの輪廻の中で死に行くべきだ。存在の証を示すべきだ。

「よくわかんねぇけど……ありがと」

愚昧な夢想はそう言って、的外れな礼を述べた。私は何も言わなかった。ただ彼を最後にちらりと見て……背を向けた。

その後、12回目の闘争中で彼と出会うことはなく、戦いは13回目へと移った。
そして私は……敵となった彼と出くわしたのである。

それは偶然であった。混沌の戦士と少々話をした、その後のことである。微弱な秩序の気配を近くに感じ、私は目を凝らした。こそこそとこちらの話を聞いていたのならば……排除せねばなるまい。
すぐに私は気配の場所を特定した。そちらへと歩みよれば、壊れた柱と瓦礫に身を潜めた秩序の戦士が……夢想がいた。しかし、盗み聞きをしにきたというわけではなさそうであった。彼はすでに戦闘後であったらしく、疲弊しきっていたのである。
私が剣を向けても、彼は睨み返すのがやっとの様子であった。足を折ったのか、それとも腕の怪我のせいで剣が握れないのか。どちらにしろそれは戦った痕で間違いなかった。戦ったのである、あの儚かった戦士が。その事実に、私はなぜかとても満足していた。

「一戦交えてみたかったものだ」

呟き、そして剣を構えた、その時だった。
チカ、と何かが彼の腰元で光った。チェーンにぶら下がったそれは……青い硝子か。よく見れば、それは見慣れたな形をしていた。ポーションの瓶、その蓋の飾りを……加工したものだった。

「……貴様、その飾りは何だ」
「あ?」
「飾りだ、ポーションの」
「かざ……? あ、コレか……。なんだかはわかんねえけど……この世界で目が覚めてから……ずっと持ってた瓶だったんだ。中身もなくなってて、空なのに……変だよな」

話すのも辛いのか、少し肩で息をしながら彼は言う。それでも青いその瞳はこちらを強く睨んだままだ。随分と……戦士らしくなったものだ。

「割れちゃったけど、なんか捨てる気になれなくて……仲間に頼んで、アクセに加工してもらったんだ。これが何?」
「そう……か」

ずっと、持っていたのか。
思いながら、武器を強く握り直す。もう用はない。

「……」

しかし、手に握った剣は動かなかった。動かせなかった。少し押し出すだけで、彼という敵を屠ることができるはずなのに。
わかっている。因循している私は愚かだ。彼に何を見ている。夢想は、敵だ。敵である、のに。

結局、私は剣をおさめ、彼に背を向けた。
またおまえはその感情に大過を犯すのか……どこからか、そう嘲笑う声がした。




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