皇帝×ティーダ



戦いでの利用価値はあるまい。
しかし闘争の世界の余興としては……ペットを飼うのも、悪くないだろう。

記憶のないまっさらな少年。植え付けるのは簡単だ。
私は彼に、この悲しい世界を出来るだけ優しく囁いてやった。そして出来るだけ甘やかしてやった。

愉快なことに、懐くのは予想より早かった。
寂しい子供は甘やかされて簡単に落ち、そうして彼は、従順に私についてくるようになった。少々生意気ではあったが、それはそれで悪くはない。

どうも良い意味でも悪い意味でも、私と彼は相性が良かったらしい。
彼は……秩序の虫螻が使うような戯れ言でいうなら……『夢』をもったやつの側にいるのが心地がいいのだ。その『夢』が例え強欲と呼ばれる罪であれ、なんであれ構わない。絶望より強欲を好むのだ。
強欲……なるほど、ぴったりではないか。

「皇帝は、何で世界を手に入れたいんだ?」
「私は支配者だからだ」
「わかんね……」

隣で唸る彼の頭を撫でてやる。前は触れるだけで抵抗したが、今となっては当たり前のように受け入れるのだから、面白い。心の中でほくそ笑む。
ジワジワと蔓延する毒のように、彼に受け入れさせる。そうして駒として仕上げていく。ああ、愉しい。

「本質的に持つべきものを欲するのは当然だ。生物が生きようとすることと同じ」
「オレが明日のことを考えるのと同じ感覚で世界侵略考えてるってこと?」
「ほう? 未来を本能的に欲する、か」

憐れな。彼に未来などない。
彼は神を殺すために、神に生み出されて生きた。その先などない。それなのに未来を欲するとは、なんと哀れなことか。

「可哀想に」

甘く言ってやれば、私の傍らで彼が不服そうに眉を寄せた。憐れむな、と言いたいらしい。
私は笑った。

「未来なら、私が与えてやろう」

宣言すると、呆れたような目をされた。生意気な。
未来を与えることぐらい、簡単だ。世界が私のものならば、その程度は造作もない。未来だけではない。真の生も、世界も。私が与えてやれる。彼を、馬鹿馬鹿しい世界や神になど支配させるものか。

「ティーダ」

名前を呼べば、彼は当然のように私を見上げ、私の言葉を待つ。
明確だろう。支配者は誰なのか。
彼はもう神の駒ではない……私の駒だ。



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