オニオンナイト×ティーダ
今日はファイアの練習にしようか。ティーダには回復魔法より攻撃魔法の方があっているのかも。
そう考えながら僕は足元の草を踏みしめ、敵の気配を探った。
ティーダは魔法が使えなかった。
潜在的な魔力は感じたし、本人もその類の技を使っていた記憶があると言うから、絶対に使えないってわけじゃないのだろうけど、少なくともこの世界で彼は現状、魔法が使えなかった。
そんな彼が、魔法を教えてくれと僕に言ってきたのが数日前のことだ。
「なんで僕なのさ。他にもいるでしょ」
「皆に頼んでみたんだけど、上手くいかなかったんスよ。フリオに至っては読めっていうだけで、わけわかんないし」
ティーダは拗ねたように答えて、本を僕に手渡した。ケアルの本。文字が違うから読めなかったのか、なるほど。僕はため息をついて、彼のお願いを了承したのだった。
しかしまぁ、なかなかどうしてこれが上手く行かないもので。理論で覚える僕と感覚で掴む彼とでは、話はかみ合わないし、ケンカになることもしばしば。そんな有り様だから、未だこの訓練の成果は全く出ていないのだった。数日経った今でもティーダはケアルの一つすら使えない。
あ……でも、二人で毎日四苦八苦しているうちに、ちょっと仲良くなったのは、成果と言えるかもしれない、と思わなくもない。
偵察から聖域に戻ると、留守番していた仲間たちが談笑しているのが見えた。その中にティーダの姿を確認する。
と、彼がふとこちらを振り返った。
「オニオン!オニオンナイト!おかえり!」
ぱぁあ、と表情を輝かせて走り寄ってくる彼は、さながら子犬のようだ。本当に僕より大人なんだろうか。
「ただいま、ティーダ」
「ちょっと、これ、ほら、見て欲しいんスよ!」
「えっ、ちょっ、なに?」
ティーダはいきなりしゃがみこむと、僕の腕を掴んで持ち上げた。目の前の彼の顔を見ると、ティーダは目を閉じて何かを念じていた。
「ティーダ?」
普段より静かな彼は、やけに凛々しく見えた。いつも騒がしいから、行動の方に目がいきがちだけど、よく見ればかなり整った顔立ちをしているんだな、なんて思った。ちゃんと大人に見える……。
「……どうッスか?」
「あっ、えっ?」
焦って聞き返す。見とれてて、聞き逃してしまった。
ティーダは少し自信なさげに僕を見上げている。しゃがんでいるから、僕が見下ろす形で、ちょっと新鮮だ。
「効いてるッスか?」
「何が?」
「魔法ッスよ」
「えっ?」
言われて腕を見てみれば、そこにあったはずの傷が消えていた。まぁ、傷といっても、あったことも忘れていたような小さな、治りかけの傷だったけど。
「回復魔法……?」
「そ!ケアル!大して回復力はないけど、使えるようになったんスよー!」
えっへん、と嬉しそうに胸をはる彼に驚けば、僕の反応にさらに気を良くしたのか、彼はガッツポーズしながら言った。
「自主練の成果ッスよ!」
「……そう」
「嘘嘘!オニオンのおかげ!」
あはは、と嬉しそうに笑う彼に、僕も心がほんわかあったかくなった。けれど、むくむくと寂しさも起き上がってくる。そっか、これで、魔法の練習は、終わりだね。
「ありがとうなオニオン先生ー!」
にかーっと笑った彼に、僕は複雑な想いを抱えて、気付いたら口が動いていた。
「駄目だよ、こんな弱い回復魔法じゃあ、実践で使えないよ、それに詠唱も長い」
「えー」
ずいぶんとまぁ、すらすらと。僕の口は厳しい言葉を自動で紡げるみたいだ。彼を誉める言葉の一つも出てこないのに。でも、厳しくするのは……ね、伝わってよ!
「じゃあまだよろしくッス!」
そう笑った彼に、僕はほっとした。
……そうしてすぐに、我ながら健気な恋をしたなぁと呆れた。
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