暗闇の雲×ティーダ

ほれほれ。遊びをしよう。
『追いかけっこ』というのだろう。さあ。追え。全てを忘れて追え。鬼の子、我はこちら。

「あーっ!もームカつくー!」

疲労を含んだ絶叫が響きわたる。それでも映る視界はゆら、ゆら。ただ彼の感情を描いておる。楽しいのだろう、遊びたかったのだろう、寂しい夢よ。しかし、そろそろ時間がくるぞ。

だから、手を抜くでない。

取り返せなければ、この夢は終わらぬ。それをおまえは……望めど、許さぬ、そうであろう。
ニヤリと笑えば、彼は不機嫌に顔を歪めてまた泳ぎはじめる。空をゆっくり泳ぐ。飛ぶのではない。我らは空を泳ぐ。ゆらりゆらり、視界は揺れる。世界はほろり、その形を溶かして、その空を泳ぐ。

ほれ、ほれ。ここまで来れるのか?

ギリギリ腕が届かない位置でひらひら衣を揺らす。彼はムッとしたのち、すい、と体をひねらせて、わしの衣をその手に引っ掛けよった。
おや、捕まってしまったか。残念残念。
からからと笑って彼にクリスタルを投げてやる。ほら約束通り返したぞ、夢想の子よ。

「どうやってんだかは知らないけどさぁ、つくづくあんたも暇だよな」

彼はクリスタルを受け取るや否や、わしを見て呆れたようにそう言った。
どうやってるのか?
なに。それは簡単な話だ。夢というのは、人という次元に発生する狭間なのだから。
空が海にぽとりぽとり落ちる。この夢が無に還る時は近い。少々惜しいが、それも摂理。

「あんま人の夢に出てくんなよ」

その言葉すら少しずつ無に溶けて、彼の姿は気付けばもうない。戦場の夢の中へ目覚めたのだろう。
見上げる。
空の欠片、人工の虹色、深海の涙、記憶の波の音、とてもキラキラ、美しく降り注ぐ。
見下ろす。
降り注ぐそれが無に落ちていく。ぴちゃん、と音がなるたび、儚い王冠が跳ねる。

彼の本質であり深層だ。幼く、美しい。
なんて滑稽であろう。複雑で単純で、寂しく、ゆえに愛おしい。

夢の子よ。
夢の中ですら、ひとりぼっちの夢しか描けぬ、寂しい夢の子よ。明日は『かくれんぼ』にしようか。
わしが遊んでやるから、いつか無に還るその日までは、どうか泣かずにお帰り。



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