ライトニング×ティファ
2012/12/17 00:00
自分の理想を確かに持ち、それに向かって日々研鑽を重ねる。そんなストイックな生徒だと、ティファはライトニングのことを思っていた。
しっかりもので真面目、厳しいくらいでありながらもクラスメイトを気遣える、なんの心配もない生徒だと。
しかし今、彼女は沈んだ顔で前に座っている。自ら、生徒指導室で話を聞いて欲しいとティファを呼び出したのだった。
ティファは少し嬉しかった。この、自分に厳しいがために悩んだ顔をも隠そうとするようなライトニングが、相談役として自分を選んでくれたことが。
ライトニングは、着座したきり、黙ったままだ。切り出す言葉を探している様子。
ティファは急かさないよう、極力、穏やかに構えていた。
やがて、少しだけ恥ずかしそうに彼女は話し出した。
「この学校のヤツらは、変なのばっかりで……。早弁用の弁当を持ってくるヤツだとか、授業中にも関わらず虹が出れば教室を飛び出して帰って来ないヤツだとか、怪しげな薬を実験と言いながら造り出すヤツだとか……」
「……」
ティファは口元をひきつらせた。彼女の言う生徒とは、前から順にプリッシュ、ヴァン、シャントット。ライトニングのクラスメイトであり、ティファの担当のクラスだ。
「あと常にピエロメイクの先輩だとか、特定の先輩に絶望を贈ろうとする先輩だとか、文房具を武器と呼んで大量に集めている先輩だとか……」
ケフカ、セフィロス、ギルガメッシュ。彼らも去年はティファの生徒だった。
「後は、フルアーマーの先輩に、授業中いなくなったと思えば一週間後にやたら日焼けして帰って来た先輩、極めつけは自由過ぎる生徒会長」
ガーランド、バッツ、暗闇の雲。……全員、一年生の時にティファのクラスだった生徒たちである。
ティファは頭を抱えたくなる気持ちをなんとか堪えて微笑んでいた。私の教えが間違っていたのかしらと悩ましい。学年が上がるにつれて内容が酷い気がする。今晩はティナを飲みに誘うことに決定。
ライトニングはそこで区切ってから、じっとティファを見た。
「……私は、そんなヤツらにいつも怒っていました」
「……」
真剣なライトニングの眼差しに申し訳ない気持ちが募る。決して彼らを野放しにしていたつもりはないのだが、結果がライトニングのような真面目な生徒を困らせているのだ。
思わず謝罪を口にしそうになったが、その前にライトニングが反語を出した。
「しかし、最近はそんな私が狭量なのではないかと思うようになったんです」
「え……?」
彼女の目にはいつの間にか熱が籠っている。
「ティファ先生の彼らに対する態度は、他の生徒たちにするものと変わりなく、いきすぎた場合には厳しく叱り、他人の迷惑にならない程度であれば宥める。硬軟取り混ぜた教育者としての姿勢の根本には、生徒たちそのものを受け入れてやりたいという思いが感じられました」
語られる過大な評価に、ティファは照れ臭く頬を染めた。
熱っぽい視線のままのライトニングは、机に身を乗り出している。
「私は彼らの奔放さを受け入れられず、怒鳴ってばかりで……」
恥じるように伏せられる、普段は強気な睫毛が、やや潔癖なきらいのある少女を極端にしおらしく見せた。
ティファは慌ててフォローする。
「そんなの、駄目なことじゃないよ!ライトニングさんも言ってくれたように、私は、生徒たちそのままを見守りたいの。だからライトニングさんも無理して私と同じようにしなくてもいいのよ?」
「先生……」
ライトニングの無防備な表情とは、このようにいつも、現実と自分自身の在り方をぶつけて、困っているものなのかもしれない。
ティファは安心させようと微笑んだ。
「ライトニングさんが怒るのも、無理ないね。あの子たち無茶苦茶で……でも、いいところもあるから、ライトニングさんはライトニングさんのやり方で、あの子たちに接してあげて。ライトニングさんもライトニングさんのままでいいのよ」
ライトニングの頬に、赤みがさしていく。
ようやく緩んだそれで、彼女は小さく頷いた。
「ありがとうございます、愚痴を言ってすみません」
「謝ることじゃないの、また私ライトニングさんの考えていること教えてね」
ティファがそういうと、ライトニングは今度は立ち上がって頭を下げて、少しすっきりした表情で、部屋を出ていった。
ティファはその、たっぷりとった余韻の時間の後で、突っ伏した。
「みんなそんなにひどい有り様なんだね……」
屈託の無い問題児たちの姿を思い浮かべて脱力する。ライトニングが告げなかった中にも、よく考えてみれば奔放な生徒たちはいるだろう。
自分の教育は何かおかしいのだろうかと悩むティファが、実はその問題児たちに結構恐れられ、慕われていることを知らない。
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