ヴァン×ティーダ
2012/12/13 00:00
*サッカー部設定
夏場はやっぱり早朝に限る。
日の出る前、海の中みたいに青い街中を走って、学校の、まだ閉まってる正門を飛び越える。ティーダはどうしても夏、うずうずしてしまう。
補講の日は起きられないけれど、部活の日は早い。なんといっても夏の大会はすぐそこなのだ。体が早く戦わせてくれとうるさい。
「わぁーーーーっ!!」
人っ子一人いない校庭に、テンションがあがってしまって叫ぶ。花壇にいた雀たちが飛び立った。叫んだ声が、小さくなって返ってくる。楽しい。
先ずは準備運動。手足をほぐして、関節を確かめて、筋肉を伸び縮みさせて。
それからようやく、二人目到着。後輩の、ヴァンだ。眠そうな目蓋のまま、肩掛けの鞄をその辺りに下ろして、ティーダがやった準備運動を追いかける。
「ヴァン、早いじゃん」
「今日もティーダせんぱいに、勝てないんだなぁ」
心底不思議そうなヴァンを待っていられなくて、ティーダはボールとじゃれ始める。上に蹴りあげて、額で受け止めて、バランスを取って右往左往。肩に落として、背中に転がして、踵で受け取ってまた蹴り上げる。
くるり、弧を描いてティーダの頭上を越えたボールはまたスタート地点。ティーダの右足の爪先。
ボールって本当にいいヤツだ。と、ご機嫌でいる間に、ヴァンの準備が整っているようだった。さっきよりも目がぱっちりとしている。
だからこのボールの行き先は決まり。
ティーダはヴァンの足元に向かってそれを蹴った。蹴ったなり、向こうのゴールに向かって走り出した。
「行くぞ!」
「おー!」
素直に笑うヴァンは、自分と同じくらいサッカーが好きなんだと、ティーダは得意な気持ちになる。頼もしい後輩。
ドリブルをする彼の足はタイミングを見計らって、ティーダにパスしてくる。ティーダももちろんそれを返す。
二人で目一杯コートを使って、気温を上げ始めた空気に熱い息を散らす。
あと三十分はしないと、他の仲間たちは来ない。
大きなパスを繰り返して、最後はティーダが、無人のゴールに思いきりシュートを叩き込む。
さっ、と揺れるネットが、本体より先に出た朝の光に金色に輝く。
「ゴール!!」
「イエー!!」
当たり前の結果にも、二人は大袈裟に喜んでハイタッチした。てん、とボールが転がる。
ティーダはご機嫌な状態で、朝の光を目に入れたヴァンの顔を見た。
汗の滲む顔は、少し悔しそうに笑っている。
「今日も駄目だった」
「だな!まだまだオレのサッカー愛の方が強いってこと!」
ヴァンとかわした約束は、ティーダより早く朝練に来れたら、告白を許してやるというもの。ティーダとしては、今はそんな小難しいことより、サッカーに夢中でいたい。
一応、大会が終わった翌日には、負けてあげようかと思っているけど、そんなの、今は秘密だ。
今は二人で、ボールを追いかけていたいのだ。
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