バッツ×スコール
2012/12/09 00:00
不思議なことに、悩んでいる間は胸の中を悪い予想ばかりが占めては気持ち悪くなったりしていたのに、好きだと告げた瞬間に、緊張に塗り潰されたのかそれらはきれいさっぱりなくなってしまった。
押し潰された心臓が、自己主張するみたいにスコールの内側から脈打っている。表情にこそ出ていなかったものの、さすがにバッツの顔を見ていることは出来なかった。
思いを告げようと決めてから行動に移すまでの間に、いつがいいかとか、どんな言葉を言おうとか、たくさんのパターンをシミュレーションした。
けれど、いざバッツを目の前にしてみると出てきたのはたった一言「好きだ」だけ。そう告げた以外、付き合って欲しいすら続けられずに目を逸らしている自分を、バッツはどんな目で見ているのだろう。
「……え?」
時間にしてどれほど経ったのかスコールには分からなかったが、沈黙を破るようにバッツの口から出てきた声(というよりは音に近かった)に、スコールは反射的に顔を上げる。
拒否される結末だって何度も想像したから大丈夫だ。
悪い方へ悪い方へ思考を持って行きながら、傷つく時のダメージを減らそうとする。バッツを見るまでの短い間に、バッツが一緒に帰ろうと門でスコールを待ってくれていたことや廊下で出会うと必ず声を掛けてくれたこと、つまりはスコールが少しずつバッツを好きになっていった些細なしあわせな出来事が一気に頭を過ぎって、胸が苦しくなる。
唇を噛んだスコールの瞳が、バッツのそれらと出会った。
バッツは心底驚きましたという風に目をくりっとさせて瞬きをしている。そして、スコールを改めて見つめてから、叫んだ。
「えーーー!! まさかスコールから言われるとは予想してなかった!! 」
「!?」
頭を抱えてしゃがみこんだバッツを心配する余裕がスコールにはない。突然の大声に一歩後ずさってしまう。
「いや嬉しいよ、もちろんオッケーだし、ほんとにすっごい嬉しいんだけど! でもおれから言いたかったってのもあってさ」
「…バッツから?」
「うん。あ、分かった、おれも今スコールに告白すればいいんだ」
バッツは、すごく良いアイデアを閃いたというように元気よく立ち上がった。こほんと咳払いをしてから、スコールをまっすぐ見つめる。
心臓は相変わらずどきどきとうるさい。けれど、今は緊張ではなく、期待のリズムを刻んで走っている。
「おれ、スコールのことが好きなんだ。よかったら付き合ってくれないか?」
当然答えは、イエスしかありえない。
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