バッツ×ライトニング
2012/12/07 00:00

こんなことで恥ずかしくて情けなくてどうしようもなくなるなんて。
ライトニングは黒板の落書きをギリギリと音をたてそうなほどの強さで睨み付けて教室を飛び出した。朝イチの事件は、彼女のクラスの黒板に、相合い傘が描いてあったことだった。彼女と、バッツ先輩の。
別に恋人同士というわけではない。ただ、廊下で声をかけられて、話をしただけだ。それからメールアドレスを交換して、たまにメールして、メールだと続かないと分かったから今度は電話番号を交換して、ライトニングのアルバイトの時間が終わった後に電話をくれて、迎えにきてくれる……だけだ。
迎えについて最初は断ったのだけれど、あっさり身を引いたと思えば電信柱の影に潜んでおり、不審者として通報されかけたので渋々許した。その時の、街灯に照らされた、嬉しそうな締まりの無い顔にほだされて、学校でも話すようになってこのざまだ。
一体誰がこんなこと。踊るような筆跡の、ピンクの文字が憎たらしい。
侮辱されたのだという怒りが足で爆ぜて、階段をかけ上がる。もう、許せないのだ。許せない!
ばん、と開いた屋上の扉。突き刺す青。今日も快晴。
当たり前のようにそこで寝転ぶバッツ先輩は、ライトニングの怒りに染まった顔にも、涼しく微笑む。
彼は、良く晴れた日の朝は屋上に登るらしい。メールか電話かでいつか聞いた。それで一限の授業をうっかり忘れてしまうなんて言っていた。変なヤツとも思ったけれど、その姿を少し見てみたいなんて思っている自分もいた。こんな形になるとは思いもよらなかったが。
バッツの笑みと、現実感がないほどの空に、怒りが冷却されていく。それでもぜいぜいと上下する肩は、激昂の余韻の役割を果たす。
ライトニングは不機嫌に言い捨てた。

「誰かが、黒板に、悪戯を……」

何を言っているのだと笑われても仕方ないほどつとつと、ライトニングは単語を並べた。
バッツは変わらぬ表情のままに、自分の片手を見せた。
そこに摘ままれていたのはにっくきピンクのチョーク。
ライトニングは瞬時に理解して叫んだ。

「お前か!!」

反射的に掴みかかる体は、お見通しの先輩に抱き抱えられて、ころん、とコンクリートに転がされる。
呆気にとられたライトニングの視界で、コンクリートの肌と自分のピンクブロンドが広がった。朝日に既に温まった地面。
同じ目線に、バッツの目線がきた。

「でも、こっちが、本命」

先輩の指が、丁度ライトニングとの間の地面を撫でた。それがまた、ピンク色に汚れる。
良く見てみれば、二人の間には、そのチョークで引かれた線があったのだ。
つまり。

「かんせーい!!」

嬉しそうに叫んで、バッツは仰向いて投げ出すように両腕を挙げた。
つまり、この二人の転がる地面には、教室の黒板に描かれたものより大きな、相合い傘が描かれているということ。
ふざけている。
ライトニングは苦々しくバッツの、日の光に縁取られている横顔を睨んだ。
けれども、自分も結局、黒板の落書きを消し忘れていた。
ライトニングはため息で全て片付けて、バッツと同じように空を仰いだ。
日差しが、眩しい。
温かい背中の下から予鈴が響いたが、帰りにくい教室のことは忘れてしまおうと決めたばかりだった。




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