カオス×暗闇の雲
2012/09/17 16:48
白み始めた御伽噺の終わりで、佇むカオスに寄り添ったのは、女神でも、勇者でも、騎士でもなかった。
無の化身の魔物。カオスは何故と問う。
「お前は、あの子供と戦った後、無に還ったのではなかったか」
「無になどいつでも還れるわ」
暗闇の雲はいつものように少し浮いて、カオスの肩辺りの高さで終わっていく世界を、カオスと同じように見ていた。
「なんじゃ、あの女神はお前を置いていったのか」
「ああ、シド共に、去っていった」
カオスからは元々、感情が読みにくい。しかし暗闇の雲は、カオスから、晴れ晴れとした気配を感じていた。
暗闇の雲はまた、なんじゃ、と呟く。
「寂しがるのかと思うた」
カオスがそんな暗闇の雲の言い様に、低い笑い声を上げた。
「雲、お前がそんなものの考え方をするようになるとはな」
「貴様がここに招いたせいであろうが」
あの、素っ頓狂なカオスの仲間たちと一緒に。あと、希望を切り開いて見せた敵たちも。
随分と影響されてしまったというのは、雲も自覚しているところだ。
雲はカオスの肩に腰掛けた。
薄くなっていく世界との別れは、もうすぐそこだ。
「わしが共に消えてやるぞカオスよ」
「それは、心強いな」
穏やかな声が、ああ、愛しいのだと感じて、暗闇の雲は胸を抑えた。
もう片手で、カオスの首を撫でる。
最後の風が、二人の間を過ぎてゆく。
消えてゆく世界は、誰の記憶にも残らず無に飲まれるのだろう。
その最後の最後を、二人はずっと、見ていた。
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