ライトニング×ガーランド
2012/09/16 22:52


女王様ゲーム


一体何がどうしてこうなったのか、ガーランドには分からない。
様々な不運が偶然にも同時期に訪れたと嘆くしか無かった。
泣きたい気持ちを必死に抑えて奥歯を噛み締める。
神様仏様カオス様。
わしは悪い子だったのだろうか、あんなに一生懸命戦ってきただけなのに。
スプーンとケーキと女王様を目の前に、ガーランドは途方に暮れた。



始まりは何だったか、確か珍しく闘争意識無く散歩をしていた時に呼び止められたのだったろうか。
闇の世界に似つかわしくない、鋭い光を纏う女はその名に相応しい目付きでガーランドを睨み付けていた。
愛らしい桃色の髪を緩くまとめたライトニングは其れを払い、銃に変形した得物を構える。どうやら闘争心は燃え盛る炎の如く滾っているらしい。
面倒だ。戦う気にはなれず、ガーランドは視線を逸らす。

「怖じ気付いたのか、臆病者め」
「ふん、ほざくが良いわ」

散歩の興が削がれた、と、外套を翻しその場を去ろうとしたが、其れがぴんっと張られたせいで叶わず、恨めしそうに振り返る。ライトニングが悪戯ににやりと笑っていた。
嫌な予感が脳裏を掠める。

「ひとつ勝負をしないか」
「…今日は戦う気になれん。他を当たるが良い」
「あぁ、そういうのじゃ無い」

この世界で我らの勝負事といえば命を賭した戦いであり、それ以外に何が、疑問を口にする前にライトニングがポケットから小さな石を二つ取り出した。
サイコロである。
タネも仕掛けも無い、ただのサイコロだ。

「二つ投げて出た目の合計が大きい方が勝ちだ。負けた方は一日言う事を聞くっていうのはどうだ?」
「…くだらん、断る」

メリットの無い賭け事に費やす時間など持ち合わせていない。
そして何処か苦手意識のあるライトニングに付き合ってやる義理も無いのだ。
外套を引っ張って彼女の手から奪い返し、帰還しようと一歩を出す。
すると、ふふん、挑発的な嘲笑が届いた。

「なるほど…案外、意気地が無いんだな」
「…なんだと?」

振り返った瞬間、ガーランドは後悔した。
逃げ道を完全に失ったのだ、己の手により。
ライトニングはにやりと勝ち誇り、ガーランドは己の愚鈍さを呪う。
賽を投げ、浚うように掴んだライトニングは悪徳代官の如く笑った。

「さぁ、運に任せた勝負だ」



そして現在に至る。
サロンに設けられたアンティークの丸テーブルに並べられた可愛らしいケーキに、ティーカップはシンプルなデザインながらくすみひとつ無く、ベリーフレーバーの紅茶が注がれ香りを振り撒いていた。
淹れたのは雷光の細い指では無く、猛者の無骨な両の手である。
見た目に反し以外と丁寧な仕事をこなす姿に、頬杖を付いたライトニングはうっとりしていた。
しかし専属の執事のように甲斐甲斐しく茶の準備をする何処か慣れた手付きに、普段からやらされているのだろうか、アルティミシアか皇帝辺りから遣われて、まるで検討違いの同情を浮かべている間に用意は整ったようだ。

「これで満足だろう。帰らせてもらうぞ」
「いいや、まだだ」

くつくつと肩を揺らす態度に苛ついたが、サイコロの目が語ったように負けは負けだ。二言は無い。
しかし一日も付き合ってやるつもりは毛頭無く、ライトニングの飽きを狙って帰還する気は満々だ。
彼女の言う通り、小洒落たサロンに紅茶とケーキを用意した。お役御免と思いきや、ライトニングはひとつのミニケーキを指差す。
指示されるまま小皿に取り分けられたが、瞳をきらり輝かせて首を横へ振った。悪巧みは計画済みだ。

「食べさせてくれ」
「なに…」

それはつまり、あーんをしろと。
このわしに、あーんをしろと。
猛者の意外に繊細な心がぐらついた。

「苺がいいな」

くつくつと楽しげなライトニングはケーキの華である小粒の苺を指差して、女王様を気取り早くしろと顎で示す。
こればかりは、こればかりはどうにもプライドが許さない。どうにかして一泡ふかせてやれないものか。
うぐぐ、悩み抜いた結果辿り着いた結末。
フォークで無造作に苺を奪い、かぷりとくわえた。

「……っ」

瞬きひとつの間にライトニングの尖った顎に指を添え見上げさせる。
どれ、驚く雷光の表情でも褒美に戴こうか。
僅かに頬を染めたライトニングの薄桃色の唇に、苺を押し当てた。





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