セシル×カイン
カイン、カイン。
穏やかな声は絶えず背後から響く。
どんなに歩いても、どんなに走ってもそれはついてくるものだから、ついにカインが折れた。
儚げな容姿とは反対に、この親友は根性と図太さを持ち合わせているらしい。
「なんだ、セシル」
「あ、やっと振り返った」
にっこりと微笑む彼は、鎧さえ纏わなければまるで女性のようだ。
中性的な顔立ちと緩やかなカーブを描く銀糸は美しいとしかいいようがない。
そんな彼が、その容姿に似つかわしくない低音を発することをカインは知っている。
「…っ」
「あれ、どうしたの?」
「な、なんでもない!顔を近づけるなばかやろう!」
ずいっと俯いた顔を覗き込むように近づいた端正な顔。
それに赤面しながらも、彼は反射神経に任せて後ずさった。
ふぅん、と意味ありげに笑うセシルが憎たらしくてならない。
このままでは完全に彼のペースにのまれてしまう。
できるかぎり冷静に現状を分析した結果、カインの出した結論はたったひとつ、持ち前の脚力を使っての離脱だった。
「あ、ずるい!」
「なんとでも言え!」
「でも、甘いねぇ」
「え、」
してやったりと安心したところで、背後から響く低音。
ああ、これだ。
にこりと微笑む中性的な顔立ちはすぐに男の顔に変わる。
「つかまえた」
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