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運命の人だ、と思った。
あの子と目と目が合った瞬間、脊髄に電流が走ったみたいにビビッてキて、全力疾走したみたいに心臓がドキドキし始めて、なんでか血流が良くなって、気付いたら勃起してた。
それから俺のふしだらな脳みそは、即効あの子とドロドロに溶け合って精液まみれになってセックスする妄想を膨らましはじめた。あの子が目の前にいるのに。
顔を真っ赤にして、「銀時ッ、」て俺の名前を切なそうに呼んで、ケツの穴をくぱぁって自分で広げて、ああ、妄想と現実の境界がぼやけて、あれ、これは、マズイ。非常にマズイ。


「オイ、大丈夫か?」
「…えっ……!」
「オメーに言ってんだよ。クスリでもキメてんのか?」
「あ、えっと…おれ、銀時っていうんだけど…名前、なんていうの?」
「アァ?…土方、だけど」
「ひじかた…」


ゴミの散乱したボロアパートの一室、つまり高杉の家で、俺は運命の人、土方くんに出会った。




俺はかわいい男の子しか愛せない変態の駄目人間だった。でも土方くんはかわいくない。いや、かわいいけど、なんていうか、俺はショタコンなんだ。けど土方くんはショタじゃない。童顔じゃないし、どちらかといえばキツめの顔をしてるし、ショタ特有のぷにぷにすべすべの肌とか、無邪気さとか、ぽわぽわした雰囲気なんて微塵もない。目つきも口も素行も悪い。けど、俺はそんな土方くんに恋をした。叶わない、恋をした。


「で?最近どうよ」
「…別に、何も」
「ふーん」


ニヤニヤと笑いながら、高杉はほったらかしにしていたケータイに手を伸ばした。コタツの上にベッタリと頬をくっつけて、はあ、と桃色の溜息をつく恋煩い真っ最中の俺は、高杉が誰かへ電話をかけるのを眺めていた。なんか、嫌な予感がする。


「誰にかけてんの」
「さぁ…。……あ、もしもし。俺。なあお前今暇?」
「えー。なんだよ。ヅラ?辰馬?」
「まじで?じゃあ俺ん家来いよ。銀時もいるし。おう。…あーなんか適当に頼む。じゃ、待ってるわ」


俺の問いかけを無視して、高杉は電話を切った。相変わらず嫌味ったらしい笑顔が張り付いたままで、なんとなくだけど、電話の相手がわかってしまった。ああ、さいあくだ。


「来るってさ」
「…誰が」
「わかってんだろ?」


クソ杉め!ぶん殴んぞチクショウ!




ピンポーンと間の抜けたチャイムがなり、間髪いれずにドアがガチャリと開いた。ああ、来てしまった。どうしよう、心臓がまたドキドキしてきた。むしろ、キリキリする。


「入んぞー」
「おー。結構早かったな。」
「駅前で飲んでたし。ほら、買ってきてやったぞ」
「サンキュー。ほら、銀時、土方きたぜ」


悪魔のような笑みを浮かべて高杉は俺の反応をうかがっている。クソ、見せモンじゃねーぞこの厨二野郎!
土方くんは鼻をずずっと啜りながら、片手に持っていたコンビニの袋をコタツの上に置いた。そして黒のダウンを脱ぎ、俺の向かいに座った。俺は伸ばしていた足をサッと引っ込め、足同士が接触しないようにそっと小さくなった。だって、我慢できなくなりそうだし。色々。


「さっみー。マジで3月か?おかしくね?」
「明日には暖かくなるらしいぜ」
「ふーん…。てか、今日テメーら何してたんだ?」
「別に何も。オメーは一体どこぞの馬の骨と飲んでたんだよ」
「馬の骨って…意味わかんねーし。ゼミの奴等と、あとはまあ適当に」


俺なんかそっちのけで、二人は楽しそうに缶ビールと煙草片手に話している。悲しいし寂しいけど、しょうがない。だって高杉と土方くんは同じ大学の同じ学部の仲良しさんだから。俺と高杉はもう十年以上の腐れ縁だけど、俺と土方くんは出会ってまだ数日しか経ってない。土方くんだって、俺なんかと喋るより、高杉と喋った方が楽に決まってる。だって、俺、土方くんの前でまともに喋れないんだもん。好きすぎて。


「なんだよ、適当にって。もしかして合コンか?」
「合コンっつーか、飲み会?みたいなモンだな」
「しらねー女がいるならそりゃ合コンだろ。いいねェ」
「いや、今日のは失敗だって。トロールみたいな女ばっかだったから。まだお前等と居るほうがまだマシだわ」


いいなぁ。俺も女の子だったら、土方くんと合コンで出会ったりして、恋人になってたかもしんねーのに。いや、土方くんが女の子だったらなァ。いや男でも全然いいけどね。俺の愛に性別は関係ないけどね。前の穴だろうが後ろの穴だろうが全然いいからね!
でも、土方くんはそうじゃない。


「聞いたか銀時ィ」
「ん、何が?」
「土方は女より俺等のがイイんだってよ」
「えっ」
「ま、否定はしねぇ」


なにそれ!遠まわしに俺のこと大好きって言ってるようなもんじゃん!期待しちゃうじゃん!この小悪魔ッ!グビグビとビールを飲んでいる土方はほんのりと顔を赤くして、悪戯っこのように笑った。ああ、ヤバイ、また、俺の息子がエレクトしちまいそう。かわいいなあ。ちゅーしてぇなぁちゅー。最初は触れるだけでよぉ、んでそっからベロちゅーして、ああ、想像しただけでイっちまう。


「お、俺も、土方くんと、い、いるほうが楽しい…けどね!」
「だろうなァ。ククッ」
「おーまじでかー。俺結構オメーに嫌われてると思ってたわー」
「なっ…!!」
「んなわけねェだろ。銀時は土方のこと大大大大だーいすきだもんなァ?…プッ」
「高杉ッッ!テメーぶっ飛ばすぞコノヤロォォ!」
「やっぱ俺のこと嫌いじゃねェか」
「ちがっ…!」


俺がオロオロするのが面白いのか、二人は楽しげに笑っている。俺はというと、やっぱり土方くんに俺の気持ちがまったく伝わってないってことがわかってしまったから、ちょっとだけ悲しかった。それに、嫌われてると勘違いするぐらいだから、よっぽど態度が可笑しいんだろうなァ…。

それから一時間後、酔いつぶれた高杉と土方くんは、静かな寝息を立てて夢の世界に旅立っている。下戸が調子乗って焼酎とか飲むからだバカヤロー。俺はテレビの音量を小さくして、コタツを出て土方くんの傍に這い寄った。
無防備で、少し幼く見える寝顔。長い睫を人差し指でそっと触ってみる。起きる気配がない。頬を撫でてみる。柔らかくて、すべすべ。そして撫でる指を口元へ。薄いけれど弾力があり、吸い付きたくなる唇。今なら、多分、ちゅーできる。神さま、ちょっとだけなら、いいよ、な?
バクバクと心臓が凄い勢いで動いている。俺は唾をゴクリと飲み込んで、そっと目を閉じ、土方くんの唇へ―――。


「…寝込みを襲うのはよくねーよなァ。なあ銀時ィ?」
「ッ!!!!」
「クックック……オメーってつくづくアホだな」
「た、たったったっ高杉テメェェェ!!!」
「そう容易く土方とキスできると思うなよォ?ククッ」
「お、おもおも思ってねェしッッ!」


ゆっくりと上半身を起こした高杉は、またクツクツと笑っている。どんだけ笑うんだよこの男は。腹立つな!
そう、高杉は寝たフリをしていたのだ。神さまは俺にちょっとだけさえ与えてはくれなかった。


「テメーだけじゃねェんだよ、コイツを狙ってんのは」
「えっ」
「ま、いいライバルでいよーぜ?でもコイツはゲイでもバイでもねーから、手強いぜェ?」
「た、かすぎ…お前も、土方くんのこと、好きなわけ…?」


声が震えていた気がする。だって、そんな。今まで俺の相談のってくれてたじゃん?俺が土方くん土方くんって言うからお前もその気になっちゃったわけ?…まじありえねェェェ!!!でも、そういえばこういうパターンよくあった気がする。幼稚園の時とか、中学の時とか…。思い出したくない記憶が掘り起こされる。
高杉は煙草に火をつけるだけで、答えはしなかった。だが、否定もしなかった。


「…俺、ぜってー負けねェからな」
「せいぜい熱くなっとけや。言っとくが、お前より俺のほうが土方との距離は近い」
「知ってるわァァ!これからだから!これから二人の愛を紡いでいくから!」
「プッ…。やっぱテメー頭可笑しいだろ」


ごろん、と寝返りをうつノンケの土方くんと、俺を馬鹿にして笑うバイの高杉。そして、高杉の裏切りと土方くん攻略で脳みそがパンクしそうなゲイの俺。三人の愛と涙と青春の、物語が始まる―――わけねェだろォォォォ!





20110306



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