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派手に机や椅子が倒れる音がし、俺は突っ伏していた顔をあげた。音のした方を見れば、真っ青になった先生が、しまった、と言わんばかりの表情で立っていた。いつもはクラス中の人間が授業なんかそっちのけで喋ったり、ケータイをいじったりしているのに、今は水を打ったように静まりかえっている。その中で、机をガタガタと揺らしながら床から立ち上がったヤツがいた。銀色頭の問題児、坂田銀時だ。どうやら怒った先生に突き飛ばされてこけたらしい。俺の眠りを妨げたのは、突き飛ばされた坂田が机にぶつかったときの音のようだ。
先生はオロオロしながら、「す、すまん…そんなつもりじゃ……。さ、坂田、大丈夫か?怪我は?」と、謝罪と怪我の有無をしきりに訪ねていたが、坂田はわざとらしく腕をさすりながら言った。


「センセー、これ、高くついたから。覚えといてね」


真っ青だった先生の顔は、青を通り越して最早白くなっていた。そして坂田は嫌みったらしく、「センセーのせいで体痛いんで保健室いってきまーす」と言って教室から出ていった。すると、もう一人席を立ち上がったヤツがいた。


「俺も腹いてーから保健室いってきまーす」


坂田に便乗したのは、もう一人の問題児、高杉晋助だった。腹が痛いと言いつつもそんな素振りを全く見せず、ニヤニヤとしながら先生の肩をポン、と叩いて高杉も出ていった。

あぁ、あの教師ももう終わりだ。今時珍しい爽やか熱血教師で父兄には好評だったのに。しかし生徒には熱苦しい上にウザイという理由で嫌われており、授業は毎回崩壊していたが。きっとあの人にとってこれから地獄のような毎日が始まるに違いない。なぜなら、坂田銀時は教師イジメで有名だからだ。アイツに目を付けられて学校を去った教師は数知れず。犠牲者がまた一人、増えてしまった。

それから、授業終了のチャイムが鳴るまでの10分。その間、ずっと教室は静寂に包まれたままだった。




学校が終わり、幼馴染である近藤さんと総悟と三人で帰っているときだった。あぜ道を横に並んで歩きながら、たわいのないことを話す。


「そういえばトシ。またお前のクラスでなんかあっただろ?」
「あー…。まぁ、うん」
「またですかィ。今度は一体何やらかしたんだ土方コノヤロー」
「俺じゃねェ!…坂田だよ、坂田」
「坂田…?ああ、あの銀色頭のヤツか!」
「あの人ですかィ。これで何人目ですかねィ」
「さぁな」


学年が違う近藤さんと総悟も知っているほど有名人らしい、坂田は。それもそうだろう。ウチのクラスの坂田と高杉、そして隣りのクラスの桂小太郎、坂本辰馬の四人組は、とても治安が悪い地区から登校しており、俺たちの親は「あの地区の子と関わっちゃだめよ」と耳にタコができるぐらい言ってくるからだ。子供にでもわかるほどの明らかな差別に嫌気がさすが、普通の子供とは何かが違うあの四人組に、あえて近寄るヤツはいなかった。


「先生イビリなんてまだまだガキだなぁ!」
「そうですねィ。年下の俺でもさすがにやりませんぜ」
「嘘付けェェ!テメー担任の先生泣かしてたじゃねーか!」
「アレはあの女が悪ィんでィ」


悪びれもなく先生を批判する総悟の頭を近藤さんと一緒に軽く叩き、三人で笑った。そしてそれぞれの家が見えてきたところで手を振って別れた。

平凡で、楽しい毎日。それが次の日には一変するだなんて、気付くはずがない。気付けるはずがねぇんだ。






20110302

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