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涼しい朝の風が、夏のにおいを運んでくる。7月に入り、夏休みも目前となったいつも通りの朝だった。そんな清々しい一日の始まりから、一緒に登校していた二人に、平謝りするはめになるとは思わなかった。


「ほんとごめん」
「なんだよトシー。最近付き合い悪いぞぉ!」
「ほっときやしょうぜ近藤さん。その代わり遊ぼうっつってももう遊んでやんねーからな土方コノヤロー」
「だからごめんっつってんだろ…」


不満そうな近藤さんと総悟にひたすら謝るのには理由があった。ここ最近、ずっと二人の誘いを断っているからだ。少し前までは常にこの二人と遊んでいたが、アイツ等と仲良くなってからというもの、その数はどんどん減っていった。普通の遊びでは、物足りなさを感じてしまうのだ。そんな自分が嫌で、二人に申し訳なくて、何度も落ち込んだ。
いっそ、近藤さん達も誘ってアイツ等と遊んでみようか、と思ったが、なんとなくだけど、合わない気がした。近藤さんは誰とでも仲良くなれるが、総悟は人の好き嫌いが激しいから無理な気がする。
でも、そんなの体のいい口実だ。本当は、アイツ等の世界に入れるのは俺だけだっていう優越感に、浸っておきたいだけなんだ、と思う。





学校が終わり、坂田と高杉と三人で秘密基地に直行。それが当たり前になるぐらい、コイツ等と一緒にいる。仲良くなってから一ヶ月ぐらい経つが、初めて遊んだときと変わらず、コイツ等は刺激的だった。タバコに始まり、万引き、自転車の窃盗など、近藤さん達とは絶対やらないことを、一緒にやった。悪いこととは知ってても、楽しかった。


「なあ、今日は何するよ?」
「CDショップ行かね?欲しいのあんだけど」
「あー、俺あっこの店、目ェ付けられてるから無理だわ。」
「土方は?」
「どっちでもいいけど」


こんな風に自分が万引きに誘われるなんて思ってもみなかったし、行かないと拒否しない自分にも驚きだ。人の、コイツ等の影響力って、ほんと、厄介というか、なんというか。


「お前一人で行けよ。多串くん、ギターやりたいっていってたよね?」
「あ、うん。まあ」
「俺教えるからさ、一緒に待ってようよ」
「いいぜ。あー、ごめんな、高杉」
「おう。なんか欲しいのあるならとってくるけど」
「じゃあアートのアルバムよろしく」
「あったらな。土方は?」
「いや、俺はいいわ。捕まんなよ」
「そんなヘマするわけねェだろ。じゃ、行って来るわ」


そういって高杉はタバコを灰皿に押し付け、秘密基地から出て行った。一人いなくなるだけで、狭いはずのこの部屋が広く感じた。ソファーで王様のようにふんぞり返ってる高杉の存在感のすごさを思い知る。
それにしても、坂田と二人だけっていうのは初めてかもしれない。コイツ等と仲良くなれば、自然と桂と坂本とも仲良くなるわけで、いつもは、少なくとも俺を合わせて三人はいるのだ。この部屋には。


「そういえば、坂本と桂は今日来ねーの?」
「どうだろ。ヅラは夜に来るんじゃない?」
「なんで夜?」
「アイツん家、ジジババしかいないから、昼とか夕方は家の手伝いしてるんだわ」
「え、父親と母親は?」
「事故で死んでる」
「そう、なのか……」
「ま、優しいジジババだし、いい家だとおもうよ」


そのジジババを頭に描いたのか、坂田は優しく笑いながらそう言った。でもどこか寂しそうな顔だった。


「そ、そうか。え、じゃあ坂本は今日こねーの?」
「アイツは今日塾だった気がする」
「塾?!」
「うん。アイツ金持ちのボンボンだから」
「まじでか…!」
「でも夜とか来るかも。アイツ、家嫌いみたいだし。家っつーか、親?」
「え、……」
「アイツ、相当プレッシャーかけられてっからさ。息抜きで、多分来るとおもうよ」


本人からでなく、人伝で桂と坂本の裏事情を知ってしまったわけだが、果たしてよかったのだろうか。こういうのって、他人に聞かれたら嫌がるもんじゃねーのかな。


「なあ、俺に話してよかったのか?」
「え、なんで?」
「いや、なんとなく、だけど……」
「多串くん、このこと誰かにいうの?」
「言わねぇよッ!」
「じゃあ大丈夫でしょ。別にアイツ等も隠してないし」
「そう、か…」
「それに、アイツ等だって多串くんなら全然オッケーって言うでしょ」


この、多串くんなら、とか、多串くんだから、とか、そういう俺だからいい、みたいな特別な使い方を坂田はよくする。わざとやってるのか、素でやってるのかはわからないが、それを聞くたびに気恥ずかしさと嬉しさで、思わず縮こまっちまう。


「あれ、多串くん。なに照れてるの?」
「て、てて、照れてねェッッ!」
「照れてんじゃん。えーなにー?多串くんかーわーいーいー」
「うっせェェェェェ!!!!」


からかう坂田に飛び掛り、ギャアギャアと取っ組み合いが始まる。そうやっているうちに、カバンに入りきらないぐらいのCDやお菓子を万引きしてきた高杉が帰ってくる。そして日が傾いた頃に、坂田の言ったとおり桂がやってくる。
そうやって、また一日が過ぎて行く。コイツ等との思い出が、増えていく。

しかし、一つ気になることがあった。坂田と高杉の家庭環境だ。桂と坂本はこの秘密基地には来るものの、ちゃんと家に帰ってるみたいだし、タバコも万引きも、あまりやらなかった。坂田と高杉はその反対で、進んで悪事を働くし、家に帰ってる様子もない。二人は、俺が聞いても答えてくれるだろうか。多串くんだから言うんだよ、と優しい声色で、教えてくれるだろうか。




20110407

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