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盗られちゃいました。かわいいあの子が、俺だけの天使が。まさに寝耳に水。まさに、青天の霹靂。
ねえ、なんで、どうして?俺なんか間違った?え、俺、どっから間違った?




いつも通り多串くんがウチにきて、飯作ってやって、二人でおもしろくねーバラエティ見ながらまったりビール飲んで、風呂入って、銀八次はいれよ、とか言われちゃって、多串くんの入ったあとの湯船…グフフ、て言ったら死ね変態、って罵られてさ、そんで、そんでさ、じゃあ一緒に寝ようか。風邪ひくといけないからね、はい毛布、あーおっと手がすべったーイヤンアハンみたいな、ね。
全然普通だったよね?俺、なにも変なことしてないよね?毎回こうだったじゃん!ビックリするぐらいワンパターンで俺もちょっと飽きてきてたけど、幸せだったじゃん!!なのに、なんでこーなるの。


「スイマセン。もう、無理です」
「ちょ、え、いやいやいや。」
「別れてください。というか、別れます」
「え、なにそれ?俺に拒否権はないの?ていうかなんで?俺らラブラブだったじゃん!!」


これまたビックリするぐらい不貞不貞しい態度で、俺のかわいい子、土方くんは口から煙を吐き出した。真昼間の喫茶店で、ホモカップルの別れ話が繰り広げられているだなんて一体誰が思うだろうか。
私服姿の土方くんは制服じゃないのをいいことに、白昼堂々と煙草を吸っている。クソ、未成年が調子にのってんじゃねーよ。にしてもやっぱ、かわいいな、チクショウ。


「ラブラブって、アンタがそう思い込んでただけでしょう」
「冷たっ!なにそれ酷くね?え、つかもう、俺のこと好きじゃない、の?」
「いや、元から大して好きじゃないです」
「え…じゃあ何で、付き合ったの?」
「まあ、なんつーか、経験?みたいな」
「…けいけん?」
「教師と生徒、っていうシチュエーション、そんな滅多に味わえねぇし、まあ、高校生活最後だし、ま、いっか、みたいな?」


はは、と軽く笑った可愛い教え子に、正直殺意が沸いた。俺、弄ばれてたよ。年下のガキに、しかも自分の受け持った生徒に、更に言うなれば、男に。
コーヒーカップをもった右手が、カタカタと震える。それを視界に捕らえた土方くんは、煙草を灰皿に押し付けながら先手を打つように言った。


「ま、でも怒んないでくださいね、センセー。いい大人なんだし、さ」
「……」
「センセー優しかったし、アッチの方も悪くなかったし、楽しかったぜ」
「…じゃ、じゃあ、別れる必要なくね?今大して好きじゃなくても、これから好きになるっつーか、好きにさせる自信、あるし、」


もうすぐ三十路近い男が、見苦しい。そう思われるかもしれない。でも、そう思われたっていい。それほどに、俺は、このクソ生意気で可愛い土方くんに、惚れてるんだ。手放したくない。何があっても。
でも、やっぱり、現実は非情だ。


「いや、それは無理」
「え……なんで?」
「好きなヤツできたから。」
「まじでかァアアアアア!!ちょ、まじありえなくね?なにそれ、俺、ピエロじゃん。恥ずかしいぐらいピエロじゃんんんん!!!てか誰そいつ!好きなヤツって誰!!!!!」
「うるせーな。……テメーも知ってるヤツだよ」


俺も知ってる奴?そうなるとやっぱ学校だよな。沖田くん?それとも近藤?ヅラか?服部先生?それともまさかのマダオ?ぐるぐるぐるぐる。頭の中で奴等の顔がまわっている。


「もしかして、ウチのクラス、?」
「…・・・じゃあ、俺、ソイツと約束あるから」
「いやいやいや、可笑しいだろ!話まだ終わってねーし、それに俺、全く納得できねーんだけど」
「はぁ。…理解しろよ。大人だろ?」


椅子から立ち上がった土方くんは、小さい溜息を零して心底鬱陶しそうな表情で俺を見下ろした。
昨日まで、あんなに幸せそうに笑っていたのに。耳まで真っ赤にして、銀八、好き、って、小さい声で、恥ずかしそうに言っていたのに。
目の前が白くなる中、土方くんは自分のコーヒー代をおいて早々と店を出て行った。 「あざーしたー」店員の、日本語とはいえない言葉が、酷く耳に残った。


そして、俺は見てしまった。ガラスの向こうで、清々しそうに伸びをした土方くんの肩を叩いた男の姿を。遅刻や無断欠席が飛びぬけて多い、眼帯の、俺のクラスの問題児。
土方くんは、照れたように笑っていた。




あーきっといまごろ、あのヤローに膝枕してるんだろうなァ。先生いい年して泣きそうだよ。
本気、だったんだけどなァ。あー。




♪倉橋ヨエコ

20110221

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