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眠らない街という名前がつくほど活気づいている真夜中の歓楽街。そこで見慣れた顔を発見した。眉間に皺を寄せ、客引きしているのは紛れもなく俺の知り合いである土方さんだった。仕事をする気があるのかないのか、いつにも増して不貞不貞しい雰囲気だ。まあそれはいいとしよう。あの人が仕事をしようがしまいが、俺には関係ない。だが問題なのは、ヤツが女の格好をしているということである。
上品なドレスに、巻き髪、綺麗に施された化粧。本当に土方さんか、と思わず二度見するぐらいの化け具合だ。でも俺にはあの化物が土方さんだという確信があった。小さい頃から、ずっと、あの人だけを見つめてきたからだ。


「土方さん」
「ッ、!!!!!」
「アンタ、何してるんですかィ」


人ごみに紛れてそっと近づき、声をかける。驚きすぎて、声にならない声が土方さんの喉から漏れた。


「つーか、どうしたんですか、その格好」
「えっ、ちょ、あ、の、……人違い、じゃない?」


余程知り合いに見つかりたくなかったのだろう。土方さんはどもりつつ、引きつった顔で無駄に声のトーンを上げてカマ言葉でそう答えた。
そんな白々しい野郎の態度にちょっとイラっとした。生憎だが、ヤツの思い通りにはしてやらない。なぜなら、俺は生粋のサディストだからだ。こんなおいしい状況、見過ごすわけがない。


「いや、アンタ土方さんだろィ」
「ち、違うわよぉ!ほんと、人違いだって!」
「えーでもソックリなんだよなァ。顔とか声とか体格とか。むしろ土方さんそのままでさァ」
「いや、あの、世界には似た顔の人が3人いるって言うじゃない?」
「あー。そうかも。よく見れば違うかも」
「でしょお!」


切り抜けたか、と一瞬の隙を見せたのを、俺は見逃さない。


「すいやせんねぇ、俺の知り合いのマヨネーズという犬のエサ大好き変態野郎と間違えちまって。」
「テメッ、マヨネーズ馬鹿にすんじゃねーぞコラ!」
「……」
「あ」





化物共と酒に酔った輩がうごめく店内の一席で、俺は隣りに座って居心地悪そうにしている土方さんをまじまじと見つめる。


「アンタにこんな趣味があったとは知りやせんでした」
「あるわけねェだろッ!」
「じゃあ、なんでこんなところで働いてるんですかィ?」


呆れた振りをして、溜息交じりにそう聞いてみれば、土方さんはポツリポツリと語りだした。
まあ、簡単に要約すると、金に非常に困ってるとき、友達にノリで「ゲイバーの一日体験いかね?」と誘われ、その延長でズルズルと働いているらしい。


「ふーん…」
「オイ総悟……このこと誰にも言うんじゃねーぞ」
「だめですよ土方さん。それが人に物を頼む態度かィ?」
「テメッ……!」
「俺ァ客ですぜ?もっとちゃんと、女みてーに頼んでくだせェよ、トシ子ちゃん」
「ッ!!!」


怒りで勢いよく立ち上がり、叫びそうになるのをなんとか堪えた土方さんは、羞恥でプルプルと震えながら静かに座りなおした。なになに?と周りの化物が此方に視線を投げ寄こしてくる。ああ、面白すぎる。いい弱みを握れたもんだ。
土方さんは軽く目を瞑り、気を落ち着かせるために一呼吸おいた。そう、それでいい。落ち着いて、冷静になって、誰にも見られたくないところを、俺だけに見せればいいのだ。


「…総悟、」


ひどく甘い、響きだった。今まで聴いたこのない声色で、土方さんは俺の名前を呼び、ぐっと身体を寄せて耳元に顔を近づけた。柔らかい唇が耳殻を掠める。心臓が、飛び跳ねる。


「トシ子のお願い、聞いてくれる?」
「な、んですかィ」
「このこと、二人だけの秘密にしたいの」
「ッ、……」
「できる、よね?」


気色悪いはずの女言葉。でも、土方さんが言ってると思うとひどくいやらしく聞こえ、ビリリと背筋に電気が走った。ヤバイ、まさかの攻撃だ。形勢逆転?ヤバイ、顔が、熱くなってきた。
バッと土方さんの顔を見ると、してり顔で笑ってやがった。


「予想以上だろ?」


予想以上っつーか、もう斜め上すぎて、はい。ごちそうさまです。





♪RADWIMPS

20110410

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