スパン、と音を立てて襖が開かれたかと思うと、そこには屯所にいるわけがない男が立っていた。真昼の太陽を背景に、光る銀色。職業もナリも、全てが胡散臭い男、坂田銀時がそこに立っていた。
「テメェ…どっから入ってきやがった」
ドスのきいた声で威嚇しても、万屋は答えない。それどころか、大股で近づいてきたかと思うと、着流しに着替えようとしていた俺を文句のいう間も与えず正座させ、そして自分もストン、と正座した。
いい歳した大人の男二人が正座して向かい合ってるこの状況を、隊の奴等に見られたら一体なんて言えばいいのだろうか。万屋は難しそうな顔でもごもごと口を動かしているが、なかなか言葉を発しようとはしない。
「オイ」
「えっ!」
ビクッとヤツの肩がゆれ、明らかに動揺しているのがわかる。キョロキョロと視線を泳がせて、落ち着きがない。それどころか、薄らと汗をかき、心なしか頬が紅潮しているようだ。風邪か?というか、コイツって、こんな男だったっけ?
「何の用だ」
「えっ」
「いや、えっじゃなくて」
「あ、おう。えっと、あの、ちょっと、俺の話聞いてくれる?」
なんでテメーの話なんて聞かなきゃなんねーんだよ。と、いつもなら返しているが、初めてみる万屋の切羽詰った様子と、ただならぬ雰囲気に俺は首を立てに振らざるを得なかった。
ふう、と万屋は深呼吸し、真っ直ぐ俺の眼を見て話し始めた。
「オメーはよ、すげー気にくわねーし、ムカつくし、性格あわねーし、マヨラーだし、トッシーだし、」
「おいテメー…わざわざケンカ売りに来たのかコラ」
「最後まで聞けって!……でもなんか気ィ合うっつーか、考えてることとか結構一緒だし、なんつーかさぁ……」
「アァ?」
語尾が段々小さくなって、もじもじとしだした万屋は心底気持ち悪く、本当にコイツ、病気なんじゃねぇか、と思った。
「それで…なんか、オメーのことばっか考えちまうし、外出たら出たでオメーのこと探しちまうし……」
「はァ?」
「…きっ、昨日とか、夢にまで出てくるし、もうこれ病気だよ!銀さんお前の所為で病気だよ!!!」
「人の所為にしてんじゃねーぞコラ。で、結局何がいいてェんだテメーは」
「ああああもうだから!俺、お前のこと、好き、みたいなんだけど、どうしよう!」
万屋は口角泡を飛ばさんばかりにそう叫び、「あああ言っちゃったァァァァ」と、両手で真っ赤になった顔を隠した。そして真正面でそれを見て、聞いていた俺は、その男が放った言葉の意味を理解するまで、数分の時間を要した。
コイツは、はっきりといった。俺が、好き、だと。
「……ギャグ?」
「いや、マジ」
「え、ドッキリ?」
「んなわけねぇだろ」
「えっ」
頭が正常に働かない。だって、そんな。犬猿の仲で、顔をつき合わせれば喧嘩ばっかで、いやいや、ナイ。ナイナイナイ。ないから。ありえない。どうせ、またタチの悪ィ冗談で俺を貶めようとしてるに決まってる。
「オメー、今全力で疑ってるだろ……」
「当たり前だろ」
「うわァァァァだから言いたくなかったんだよ!バカ!マヨラー死ね!」
「ハァァァ?!意味わかんねーんだよこのクソ天パ!!!」
「うっせええええ!どんだけ俺が迷ったとおもってんだ!人の純情踏み躙りやがって!」
「テメーの言ってることをハイそうですかってやすやすと信じられっか!」
「伊達や酔狂でテメーなんぞに告白するわけねェだろ!こちとらテメーのこと考えすぎて夜は眠れねぇ息子はエレクトしまくるし!どうにかしろコノヤロー!」
「ッ……!!」
ドクン、と胸が高鳴り、何もいえなくなってしまった。そして俺が黙ったことにより、自分がとんでもないことを口にしたと気付いた万屋は、さらに顔を真っ赤にして俯いて口を噤んだ。
どんだけ俺のこと好きなんだよ。ありえねぇって。男同士とか。ないって。まじで。いやでも、なんでこんなにドキドキするんだ?顔が、熱い。
「…っつーわけだから!帰る!」
「ちょっ、待てッ!」
「うっせー!これでオメーも俺のこと気にして悶々ムラムラすりゃァいいわ!バーカ!」
子供のような捨て台詞を叫び、万屋は部屋を飛び出していった。あのヤローは、嵐のように俺の頭と心をグチャグチャに引っ掻き回してして逃げやがったんだ。ありえねぇ。武士の風上にもおけない、ほんと、嫌なヤローだ。
でも、確かに好き、といった。夜も眠れないぐらい、俺のことを考えてる、と。
「あー…ありえねぇ…」
ドキドキドキドキ。速まる心臓を服の上からぎゅっと握りつぶした。
♪加藤ミリヤ
20110322
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