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秘められた情事の後、事が終わるや否や、男は脱ぎ散らかした服をかき集め、そそくさと黒い制服でその白い肌を隠していく。窓枠に腰掛け、煙管をくゆらせながらそれをじっくりと観察する。広い肩幅。すらりと伸びた手足。他者に比べれば幾ばくか細い腰。筋肉が程よく付いた男の身体は美しく、肌もきめ細やかで女とはまた異なった抱き心地のよさがあった。


「見せモンじゃねーぞ」
「いいじゃねェか。減るもんじゃあるめぇし」
「気味悪ィんだよ」
「ククッ。土方ァ、テメー照れてんのか?」


微かな色香を匂わせながら、肩越しに鋭い視線を投げ寄こした情人は丁度スカーフを巻き終えたところだった。黒を基調としたその制服は禁欲的で、一糸纏わぬ姿との差に、ひどく煽られてしまう。身を潜めていた欲望が、ゆらり、と湧き上がる。


「副長さんよォ、まだ時間あんだろ?」
「……」
「もう一寸楽しもうや」


ゆっくりと腰を上げると、土方はビクリと身体を強張らせた。だがそれだけで、逃げもしなければ拒絶もしないことを俺は知っている。獲物を追い詰めるようにじっくりと距離をつめ、手を伸ばす。が、意外にも俺の指は滑らかな頬に触れることなく土方の手によって叩き落された。


「触んな」
「アァ?」
「……帰る」
「おい待て」


踵を返して逃げようとする土方の腕を掴み力任せに引き寄せると、男はぐらり、と体勢を崩してよろめいた。それを機に、俺は土方を強引に押し倒し、畳に縫い付けた。あっという間の出来事だった。


「クソッ…退け!帰んだよ俺は!!」
「土方」
「畜生、高杉ッ!退けっつってんだろ!」
「まだ帰んなよ」


形のいい耳元で甘く低い声色でそう囁けば、ひ、と男は息を飲んだ。思い通り。これで、もう抵抗も拒絶も、逃亡すらしないだろう。
果たしてどんな表情をしてるのやら、拝んでやろうと顔を見れば、土方は頬を朱に染め上げ、悔しげに此方を睨みつけていた。その表情の、なんと艶やかなことか。嗚呼。
この男の全てが、俺の琴線に触れて、波紋を起こしていく。忘れていた感情、殺していた恋慕、全部ぐちゃぐちゃに引っ掻き回され、呑まれていく。溺れていく。


「ほんと、いい様だよなァ」
「クソ、ふざけんなッ……!」
「テメーのことじゃねぇよ。……で、どうすんだ?」
「…あ?」
「今ここで帰るなんて無粋なこと、しねぇよな?」
「ッ……」
「沈黙は肯定ととるぜ。いいんだな?」
「……」


ふい、と顔を背けながらも口を閉じた情人を、今度は一体どうやって可愛がってやろうか。巻きなおしたスカーフを抜き取り、白い首に唇を寄せ、思うのだ。もう手遅れだと。




♪椿屋四重奏

20110326



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