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放課後の教室。バラバラと散り始めたクラスメイトと同じく、俺も帰り支度を始めた。今日は近藤さんは委員会だし、総悟はミツバとスーパーに買い物に行くらしく、一人で帰らなきゃいけない。別にそれが嫌っていうわけじゃないけど、真っ直ぐ家に帰るのも暇なので、教室で友達と喋ってから帰ろうと思っていた。それが、間違ってた。


「多串くん、ほら行くよー」


俺のカバンを持った坂田が呼んでいる。隣にはやっぱり高杉の姿が。数人残っていたクラスメイトが、遠巻きに俺を哀れんでいるのがわかった。




今までこの二人とはちゃんとしゃべったことがなかった。同じクラスでも、そういうヤツっているだろ。性格合わなさそうだし、厄介者だって知ってたから、あえて自分から話しかけようとは思わなかった。同じように、向こうからも話しかけられることはなかった。それなのに、さっき。帰り支度を終えた俺のところに坂田が来て、こういった。


「ねえ、この後暇?」


驚きすぎてぽかん、としてしまった。4年になってから3ヶ月が過ぎても全くしゃべった事ないヤツに、まさか話かけられるだなんて思わないだろ、普通。だから俺はもしかして他のヤツに言ったんじゃないかとおもって、回りを見渡した。けど、そこには誰もいなかった。


「お、俺?」
「そ。他に誰がいるの?」
「なんで?」
「なんとなく。多串くん、おもしろそうだし。で、暇なの?」
「いや、暇だけど、ってか俺多串じゃねぇし」
「うん知ってる。じゃあ遊ぼう」


にこ、と笑った坂田は、俺のカバンを引っつかんで教室のドア前で待機していた高杉のところへ行ってしまった。
いやお前らと遊びたくねーし、てかカバンとんなよ、つか多串って誰だよ。言いたいことが喉の奥まで出掛かってたけど、坂田のまさかすぎる行動と、強引さでまだ驚いていた俺は、何も言えず二人の後を追うしかなかった。




坂田と高杉は俺を挟むようにして横にならんで歩き、俺ん家がある方向とは真反対に進んでいく。新しくできた集合住宅街を抜けて、澱んだ川の傍にある工場を通り過ぎ、山に近い団地についたところで、二人は足をとめた。


「多串くん、この団地しってる?」
「しらねぇ」
「聞いてビビんなよ。俺たちの秘密基地だ」
「秘密基地…?」
「そ。ここ全部」


自慢げな坂田と高杉を交互に見た後、俺はぐっと息を飲んだ。だってそこは何十棟もある大きな古い団地だったから。これが全部秘密基地って、どういうことだよ。
団地には人が住んでるようには見えず、まわりは背の高い錆付いたフェンスで囲われていて、どうしても立ち入らせたくないのか、フェンスの上のほうにはよじ登ることができないように有刺鉄線が巻かれている。よく見ると赤いペンキでかかれた立ち入り禁止の看板がかかっていた。


「立ち入り禁止って、書いてあるけど」
「多串くん。ルールはね、破るためにあるんだよ」
「なわけねーだろ」
「なんだよ土方ァ。テメーいい子ちゃんか?」
「ち、ちげーよ!…てか、どうやって入んだよ」
「こっち」


坂田は俺の手を引き、しばらくフェンス沿いを歩き始めた。
正直、帰りたかった。これ以上、こいつ等のテリトリーに入りたくなかったから。こいつ等が嫌いなわけじゃない。しゃべってみて、すっげー悪いヤツでもねーし、大人ぶったふりしてるだけで、俺とそう変わらない子供だってこともわかったけど、やっぱり何か不安なんだ。そう思ってるのに、なんでか俺は坂田の少し湿った手を振りほどくことはできなかった。

そして歩くこと数分。より山側に近いところのフェンスの下に、子供一人通れるぐらいの穴を発見した。


「いつもこっから入ってんの。これ、辰馬がペンチであけたんだぜ」
「まじでか」
「アイツ、バカのくせにやるときゃやるからな。じゃ、入ろーぜ」


まず先にカバンを入れ、高杉が入った。そして、次に坂田が。
フェンス越しの二人を見て、今ならまだ引き返せる気がした。なんとなくだけど、今フェンスで区切られてるみたいに、俺たちは住む世界が違う気がする。同じ学校で同じクラス、同じ子供だけど、こいつ等は俺や近藤さんや総悟とは違う。俺たちみたいな、平凡で幸せな子供じゃない、気がする。
ためらう俺に、坂田と高杉が手を差し伸べた。


「ほら、来いよ」
「多串くん」


なんだろう。イメージするなら、悪魔の甘い囁き、とでもいうんだろうか。怖いもの見たさというか、なんというか。足元にどろりと固まってた不安が、どっかに逃げてった。
だって、二人が手を差し伸べた瞬間、思ってしまったから。こいつ等の世界がみてみたい。もっと、こいつ等のことを知りたいって。

俺はしゃがんでフェンスの穴をくぐり抜け、二人の手を握った。それに、迷いはなかった。そんな俺に、坂田と高杉は笑った。先生たちに向ける、生意気なそうな笑顔じゃなくて、純粋に、本当に嬉しそうに笑った。


「じゃ、いこーぜ!」
「ほらこっち!」
「お、おうっ」


二人に手を引かれながら、俺は自分の選択が間違ってなかったことを、確信した。だって、こんなにも、胸がわくわくするんだ。






20110310

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