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ノックを三回。盆にのったドリンクをこぼさないように営業スマイルを顔に張り付かせて304号室に「失礼しますー」と言いながら入ると、よくあるシチュエーションに遭遇した。
まず男の上にまたがり、顔を赤くしている女と目がかち合った。シャツとブラジャーがめくり上がっていて、白い肌が露わになっている。非常によくある光景だ。カラオケをラブホ代わりにしてるか、暗い照明と密室という条件からイヤラシイ流れになってしまったかのどっちかだ。でも結局ヤることヤろうとしてるのには変わりないので、一応店員である俺は注意しなくてはならない。めんどくさいけど。


「すみませんお客様、当店はそのような行為をするためのお店ではございませんので、申し訳ありませんが然るべき場所でお願いいたします」
「あァ?すぐ終わるからいいじゃねーか」


稀に、こういう客がいる。普通はあたふたと離れてすみません、と謝って居心地悪そうに帰って行くのだが、どんだけヤりてーのか、食い下がってくる客が。てかすぐ終わるってなんだよ。そういう問題じゃねーのがわかんねーのか早漏野郎。とも言えず、俺は門が立たないように丁寧な言葉でセックスを止めていただかなければならない。なぜなら俺にはもう後がないからだ。


「いえ、ですから当店はカラオケをするための店ですので…」
「だからすぐ終わるっつってんだろーが。空気読めや」


おいおい常識知んねーのか。むしろオメーが空気読め。そんなにヤりてーなら数十メートル先のラブホにいけやコノヤロー。店員だからってナメてんじゃねーぞコラ。


「あ…?テメーふざけんなよ」


やばい。声に出てたらしい。女が邪魔で男の顔は見えないが、声から推察するに、結構キレている。次問題起こしたらクビっつわれてんのに、これは非常にまずい。男は自分の上に乗っていた女を乱暴に退かし、女は悲鳴を上げてソファーに倒れた。乱れた女は泣きそうな顔で男を見ている。少し哀れだった。


「クソ店員こっちこ……あ、お前、土方?」
「あ?…え?」


そこにいたのは、昔と変わらず左目に眼帯をした男。女とセックスしたがるタチの悪い客は、高校の同級生、高杉晋助だった。




それから数日後。連絡を取り合い、これもなにかの縁ということで卒業振りに会うことにした俺たちは、コンビニで大量の酒とアテを購入し、一人暮らしである高杉のアパートに行った。


「つかまじありえねーだろ。オメーカラオケでなにやってんだよ」
「なにって、そりゃナニだろ」
「いや全然うまくねーから。てかほんと久しぶりだな。二年ぶりか?」
「三年ぐらいじゃね?オメー今なにやってんだよ」
「今学生。高杉は?」
「俺は、まぁ、フリーターみたいな」


缶ビール片手に談笑する俺たちが、高校の時はかなり仲が悪かったなんて誰が思うだろうか。俺でさえ信じられないぐらいだ。昔は気にくわねー野郎だ、としか思えなかったが、大人になったということなのだろうか。
今何やっている、というところから話は始まり、高校時代の思い出に花を咲かせれば不思議と酒も進み、高杉が大事に飲んでいるという焼酎を何本も空にした頃には、もう夜中の1時をすぎていた。


「やべ、終電のがした」
「泊まってけよ。明日なんもねェんだろ?」
「あーワリィな。じゃあ泊まるわ。てかのみすぎたー。若干気分わりィし」
「なんだァ?もう終いかァ?やっぱ土方は顔だけのしょうもねー男だな」
「んだとテメー上等だコラ…!」


高杉は昔からよくこうやって挑発し、俺はその安い挑発に乗っていた。それが原因でボコボコに殴りあったのも、今ではいい思い出だ。そして、今回も同じ。頭はグラグラするし、平衡感覚なんて皆無だが、ここで飲まなきゃ男じゃねぇ。俺は高杉がよこした酒を一気に飲みほした。喉がカッと焼けるように熱い。


「どうだ!ほらテメーものめや!オエ…」
「土方ァ。オメーもうやばいんじゃねーの?」
「ん、なことねぇ、し!!」
「いやもうやべーだろ。だってほら。抵抗できねーだろ?」


グッと凄い力で腕を引かれ、為すがままあれよあれよと、気付いたらいつの間にか押し倒されていた。あれ?


「おいたかすぎ、のけ…」
「俺よォ、一回オメーとヤってみたかったんだよなァ」
「は、?」
「オメー男の割りにキレーな顔してるし、感じてる顔とか、見てみてェし」
「…ちょ、その冗談、わらえねーって」
「冗談じゃねェよ」


唇に、柔らかいものが触れた。働かない頭でもわかる。キスを、されたのだ。同性の男に。そして、ぬるっとした感触。高杉がペロペロと俺の唇を舐めている。やばい、襲われてる。抵抗しようにも、酒の所為で全くといっていいほど力が入らない。それどころか、きもちいいかも、と思ってしまっている。俺、やばい。


「オメー処女だろ?痛いのが嫌なら、大人しくしとけや」
「ちょ、まじ、やめ、ろって!むり!おとことはむり!」
「これを機会に新しい世界への扉、開いてみたらどーだ?」
「そんなとびら開きたくねェェェ!」


必死の叫びも空しく、あっさりと処女を奪われた俺は、高杉の言うとおり、新しい世界への扉を開いてしまった。ウェルカムトゥアンダーグラウンド。クソくらえチクショウ。




thx!...ジャベリン
20110309



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