今日の夜には雪が降るから、気を付けるようにと里中に伝達が回った。
日が落ちてからの任務は、相当体が冷えて針のように皮膚を突き刺す寒さの痛みが布の上からでも感じ取れる。
皆が寝静まる頃、俺は任務を終え、報告の為に一旦火影の元へ向かう。
ちらほらと伺える上忍たちの姿と、耳に届くのは寒いな、と語り合う会話。

家路に着けば、扉を開いて向かい入れてくれるのは最愛の恋人。
おかえり、何て平凡な言葉が冷えた体をも温めてくれたような気持ちになる。


「カカシ、お風呂準備出来てるよ」
「ん、ありがと」


ただいま、と言って彼女の額に優しく接吻をする。
俺の体はやはりとても冷たいのか、彼女はその一瞬ぴくりと体を震わせた。
そして任務服のジャケットを脱ぎながら、脱衣場に向かった。


お風呂から上がり、タオルでがしがしと頭を拭いながら出てくれば、彼女が寒い中窓を開けて外をじっと眺めていた。
カーテンが冬の風に煽られ、ゆらゆらと揺れる。
一瞬、彼女の体が消えてしまうような錯覚を覚えた。


「ヒロイン…どしたの?」
「あ、ごめん、湯冷めしちゃうね」


切なそうな横顔がぱっと花が開いたように明るくなって、急いで窓を閉めようとする彼女の手を、俺は大丈夫だよと笑って制止する。
彼女は、丁寧に小さく笑うと再び空を見上げた。
風がさわさわと吹いて、葉と葉を擦りあわせて通り過ぎて行く。


「今日雪降るんだって」
「本当?だからこんなに空気が澄んでるんだね」


そう言って少し嬉しそうに、頬を赤くする。
以前、彼女が冬の空気が好きだと言っていたことを思い出した。
冬の夜は風は冷たいけれど、空気が澄んで、その空気を体いっぱいに吸い込むと気持ちが良いのだと教えてくれた。
それを聞いてからと言うもの、俺も何となく冬を好きになっていた。


「ねえ、カカシ」
「なに?」
「雪が積もったら雪合戦しよ」
「えー…」
「何よ、その目は」
「いや、いつまでも若い気持ちでも体は付いていかないよ?」
「うるさいな」
「はは、」


白い小さな粒が暗い夜空からぱらぱらと落ちてきて、彼女があっ、と嬉しそうな声を上げた。
積もりそうにない小さな雪たちに、どうか、彼女の願いを、朝が来たら雪合戦が出来る程に雪が積もってますようにと心で願えば、脳裏に浮かぶのは彼女の楽しそうな笑顔で。


「何でニヤニヤしてんの、気持ち悪い」
「お前、彼氏に向かって気持ち悪いとか…」
「…うそ、かっこいいよ」


ただ、君の笑顔が見られれば俺はそれだけで。




止まぬ笑顔は天使のよう



110214.
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