元から我慢することは嫌いだった。
いや、だからと言って常識の範囲って言うのがあるけど。
わたしはどちらかと言えば常識はある方だと思っている。
でも、いくら何でもこれは酷すぎる。
別に付き合っている訳でもないし、好き…な訳でもない筈。
いや、違う。
向こうが急にあんな事を言うもんだから意識しているだけなのかも知れない。


「好きなんだよね、付き合ってくれる?」
「…は?」


そう、正に昨日の今頃。
任務の終わりが偶然一緒になって、待機所で私は珈琲を片手にちょっとのんびりしていた時だった。
突然前触れもなく告白してきたのが、この今目の前で、他の女上忍仲間とイチャイチャと引っ付いて酔っ払っている大馬鹿野郎だ。
冗談でしょ、と笑ってはぐらかそうとすれば、真剣な面持ちで真面目だよ、と答えるもんだから、私もそんなに偉くもない脳を一生懸命使ってカカシとのこれからの関係を考えていたのに。
今日の飲み会だって本当は来る予定はなかったけれど、人数合わせに呼ばれただけの損な役だった。
元々言わば飲み会という名の合コンみたいなものに、なぜこいつも参加しているのか。


「ヒロインちゃーん、俺と飲もうよ」
「結構です!」


自身の腕を私の肩に乗せて酔っ払って絡んで来た知らない男の手のひらをぺん、と叩いて一刀両断して、自分で頼んだ烏龍茶をストローで思いっきり吸い込んでやった。


「(…来るんじゃなかった)」





「あれ?ヒロイン楽しんでる?」


無意味にメニュー本に目を通して、腹の虫を落ち着かせようとしていると、カカシが隣にど、っと腰を掛けてきた。
目も顔も見たくない、腹が立つこの男に、一言物申してやろうと視線をメニュー本からカカシへと向けた。


「あのねえ…、」
「なあに?」
「…っ…、あんたって奴は!ほんっと最低!」


気が付けば私はカカシの左頬を平手打ちしていた。
パァン、と綺麗な良い音が盛り上がっていた飲み会の部屋の中に響き渡り、一瞬にしてしん、と静まり返る。
そしてカカシが目を見開いて驚く代わりに、数人はその様子を見て酔いも入っているのだろう、腹を抱えて笑っていた。


「どうしたの…!落ち着いて…」


そう言って私の体や気持ちを抑えようとする仲間の腕を振り払って、部屋を飛び出した。何なの。何なのよ。何でカカシの口元付近に口紅が付いているわけ?
もちろん、彼は口布をしているから直接では無いにしろ、ちょっと不謹慎だと思うのは私だけなのか。
悲劇のヒロインみたいに、息を切らせて暗い里の道を走り抜けていく。
そんな自分が可愛そうな人に見えて、更に酷く落ち込む気持ちになるのに、不思議と涙は出て来ない。
やっぱり、好きだとか言っていたのは冗談だったんだ。
そう思ってしまえば何もかもが楽だった。
もうおとぎ話みたいな、お姫様みたいな、そんなものは等の昔に置いてきた筈なのに。
今更、ときめきを覚える年でもないだろうに。
一瞬でもあいつを私の王子様だと思った私の方が大馬鹿野郎だった。


なんだ、私、カカシを好きになってたんだ。





「…おはよう」


次の日の朝、待機所でぎこちなく話し掛けて来たカカシを、気付かぬ振りをして任務の書かれた書類に目を通す。
小さな溜め息が聞こえて、ふわりとカカシの香りが近付いたかと思えば私が座っている隣に腰を降ろした。


「言い訳しない、ごめん」
「…何が?」
「昨日のこと正直記憶ないんだよ」
「……」
「ずっと、ヒロインと飲んでると思ってた」


思わずカカシの口元に視線を上げる。
布がゆっくりと動くと同時に、カカシの言葉を遮った。


「俺、は」
「私ね、カカシが好きみたい」
「え、」
「昨日のは嫉妬。焼きもち焼いたの。責任取ってよ」


そう言って、カカシの目を真っ直ぐに見つめる。


「…ああ」


頬をほんのり赤くして、ふ、と照れ笑いをする、そんなカカシに私の胸は温まっていた。





我慢は苦手分野
だってあなたが好きだから




110325.
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