「知ってる?あの橋を通り抜けるときに願い事をすると叶うんだって」


珍しくロマンチックなことを言う君は、少しだけ頬を紅くして、目尻にシワを寄せてふわり、と笑う。
本当?と疑いながら笑えば、やってみればいいじゃない、と橋の下まで来ると寒さを和らげる為にずっとポケットに入れていた手を出して、それを胸の前に合わせて目を閉じる。
その横顔が余りにも綺麗で、俺の視線は彼女から離せなくなった。


「何をお願いしたの?」
「言ったら叶わなくなるでしょ」


ちょっとした興味本意で尋ねたのに、呆気なくかわされてしまえば、意地でも聞き出したくなるってのが人間の性だと思う。
でも彼女の言うように、願い事を口にしてしまえば叶うものも叶わなくなるのかも知れない。


「確かにそうだけど気になるもん」
「何かわいこぶって言ってんの、良い歳した親父が」
「ひどっ」
「こんなに優しい彼女が酷い訳ないわ」
「何で最後にハート付けてんのよ」
「はははっ、」


俺の願いは決まってる。
今、目の前にあるこの幸せがいつまでも続くこと。
何て女々しい願いなのだろう、君に言ったらそう言って笑うに違いない。
ゆっくりと歩き出した俺たちは自然と手を重ね合わせ、優しく握り締め合う。
小さい手だ。強く握ってしまえば脆く壊れてしまいそうな程に。
はあ、と小さく息を吐く。
白い吐息が空を舞って儚く消えていく。
彼女の頬が寒さから先ほどよりほんのり紅く染まっているのが分かる。


「カカシは何をお願いしたの?」
「俺にだけ言わせるの?」
「あ、やっぱり?」
「ヒロインが先に言ってくれたら言うよ」
「えーずるい」
「ずるくない」


こんな些細なやり取りでさえ、俺にとっては何よりも変えがたい大切な時間なんだ。
歳を重ねて、世の中のどんな理不尽にも耐えてきた。
残虐なことも、この手を血で染めることもいつしかそれが普通になっていって、君の隣を歩く資格すらないのだと頭では分かっているのに。
心がそれに断固として従わないのは俺の我が儘なのだろうか。
こどもの頃は単純に考えられた物事でさえ、今となっては現実を無視しては何も出来ないし考えられない。
ずっとこどものままで居られたならどれほど楽で幸せなのだろう。


「こどものままじゃ結婚は出来ないよ?」


ふ、と意識を戻され、目を見開いて彼女の視線を捉える。


「なに…?急に」
「こどもで居たいなーとか考えてたでしょ」
「もしかして…口に出してた?」
「ううん、なんとなく」


そう言って、身が震えたのか寒そうに肩を竦めると歯を出して小さく笑う。

確かに、今の俺だからこそ彼女を守れる力があるし、知恵もある。
ただ単純に彼女が好きだから今もこうして一緒にいる。
この気持ちは昔から変わらない。
こどものままだった。





こどもでいたい



110913.
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