「いらっしゃいませ、何をお探しですか?」
「いや、あの…」


女は光り物に弱いと聞く。
自分の身を着飾り、綺麗にして男を魅了していくのだ。
けれど、俺の女は周りの女たちと少し違っていた。
お洒落には疎いらしく、常にシンプルな服装で髪は結わずに、髪飾りも付けない。
任務がない時くらいお洒落したら、と言ったこともあったが、いいよ、わたし何て、と笑って誤魔化されてしまった。
お洒落して可愛くなって欲しいと、少しだけ思う時もある。
しかし良く良く考えてみれば、他の男があまり寄り付かないのだから、よし、としよう。
彼女の可愛い所は俺だけが知っていれば良いのだから。
と、思っていては彼女の男としてやってはいけない。
元より性格上飾ることなく人と接するせいか、異性関係なく友人が多いのは否めない。
俺という身がありながら何度か、男からその想いを告げられたことも屡々あるようだ。
後にその男共を締め上げたのは言うまでもないが、無防備な彼女も悪いのだ。

と、考えた末、俺は一大決心をして此処にいる訳だが、唐突に店員に話しかけられて気持ちが一気に揺らいでしまった。やはり、まだ来るべきではなかったのか。
木ノ葉のコピー忍者と恐れられた俺が何て言う様だ。


「…けっこんゆびわ、を」
「はい、こちらになります」


慣れた手つきで、にこり、と笑う店員の示した商品を、びくつきながらまじまじと眺める。
しかし、ショーウィンドウに綺麗に並べられた商品は、どれも同じに見えて仕方ない。
彼女のことをお洒落に疎いと言っておきながら、俺も人のことは言えないようだ。


「あんまり派手過ぎないのってありますか」
「では、こちらはいかがでしょうか」




やっとの思いで購入したそれを持って店から出れば、暑い日差しが照り付ける太陽の光に一瞬目を細めて、手に持った小さな紙袋を見て小さく溜め息を吐く。

早速彼女の家を訪れれば、驚いた顔を見せる彼女。
またシンプルな服着てるよ、と心で呟いて、そんな彼女が変わらず可愛く見えて、どうしようもない男だと、思い知らされた。


「あれ?今日会う約束してないよね」
「うん、ちょっとね」


そう言って部屋に上がり込む。


「後ろ向いて」
「え、なに急に?」

いいから、と無理矢理後ろを向かせて、紙袋からいち早く取り出しておいた指輪を、しゃら、と音を立てて彼女の首にかける。
思い返せば店の店員に、指輪はネックレスにしてもらえますかとお願いすることが、一番楽な言葉だった。


「こ、れ…」
「俺と結婚してくれますか」
「…はい」


頬を赤く染めて、瞳には涙を浮かべて、今までで一番可愛い顔で笑う彼女を自分の胸に優しく引き寄せて、今俺は世界で一番幸せな男だと心から思えた。




ガーデニアの胸飾りを君に


(これ、一人で買いに行ったの?)
(当たり前でしょ)
(ふーん、)
(何、その顔)
(べっつにー)
(嬉しそうな顔しちゃって)
(い、いいでしょ!嬉しいんだもん!)



101108.
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