ミン、ミーン、と何処からともなく、懸命な蝉の泣き声が止まる事無く響き渡る。
ジリジリと肌を焼く様な照り付ける太陽。
碧い空には真白な入道雲が、これでもかと言う程自分を主張し、額や頬を流れ行く汗は噴出して止まらない。
走り出す脚に、息を忘れてしまいそうな程喉が潤いを欲している。

学校での課題が思った以上に長引いて、兄との待ち合わせの時間に大幅に遅れてしまった。


「はあ、はっ、兄さん、忙しいのに…どうしよう…!」


任務で忙しい身の兄が、珍しく修行に付き合ってくれると言い出したのは昨夜のこと。
兄が約束を守ってくれることは正直少ない。
それが、兄から修行を見てくれると言ってくれたのは、眠れない程嬉しかったし、学校何て行かずに兄と一緒にいたかった。
今朝、そんなことを言って額をつつかれたのは言うまでも無い。
幾らどうもがいても今はただ、待ち合わせ場所に向かって走るしかない。
それは分かってはいるけれど、もう随分と走って来て一度も休憩を挟んでいない。
脚も体力も限界にまで達していた。
更には暑い夏空の元、どうにも汗は止まらない。
進めていた歩幅が少しづつ狭まって来て、足を止める。
両手を膝に乗せて、動けよ!と喝を入れる。
ぽたり、と砂の上に汗が垂れ、丸い染みを作る。


「大丈夫?」
「…え、」


横から、す、とタオルを差し出して来た見知らぬ人。
太陽の逆行と重なって、見上げた人物の顔はくすんで何も見えなかった。
上半身を上げて、視線を合わせれば、そこにいたのは見知らぬ女の子。
学校でも見たことが無い。
最近この里に越して来たのだろうか。


「あ、ありがとう」
「ううん。汗すごいよ」
「ずっと走って来たから」


タオルを受け取って、汗を拭い取る。
ふわりとしたタオルからは花の良い香りがした。


「そんなに急いでどこに行くの?」


戸惑った様に小さく笑って、自分が背負っていたバックを漁り出す。
中から水筒を取り出して、はい、とおれに渡してくれた。


「うん、兄さんと修行するんだ!」
「すごいね!きみ、忍びなんだ!」


ありがとう、と水筒を受け取って、冷たいお茶を一気に喉に流し入れる。
女の子は目を輝かせて歯を出して笑う。


「すごくないよ、普通だよ」
「普通じゃないよ!かっこいいね」
「…そ、そんなこと」
「じゃあ、修行頑張ってね!」
「あ、待って…!」


女の子は水筒とタオルを受け取らずにそのまま駆けて行ってしまった。
小さな背中が夏の気温でゆらゆら歪んで、見えなくなった。





「サスケ、遅かったな」
「兄さん!ごめんなさい!」
「いや、怒って無いよ…それより」
「どうしたの?」
「何か良い事でもあったのか?」
「え…!」
「…まあ、いい。修行やろうか」
「う、うん!」



最初で最後、きみと出会ったあの夏をおれはずっと忘れないだろう。





100812.
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