任務帰りからやっとの思いで寝付いた所を、チャイムによってその眠りは邪魔され、扉を開ければいつもなら愛しい筈の恋人。
けれど、はい、と目の前に差し出されたものに困惑の色を隠せない。それは当然。夜中にも関わらず家に押し掛けて来たかと思えば、何故子猫を差し出すのか、全く理解出来ない。それでもカカシはいつもの様に、お邪魔します、と部屋に入り込んで来た。


「え?ちょっと、なに?」


腕に抱いている、薄灰色の毛並みが綺麗な小さな子猫が、にゃーと鳴いて、訳も分からずに立ち尽くす。拾ってきた、と言ってにっと笑うカカシ。いやいや、答えに成って無いから、と心で突っ込んでみる。


「カカシさ、お酒入ってるでしょ」


わたしはアルコールの匂いが苦手だった。だからカカシから微かに漂って来たそれはわたしの鼻をつん、と少なからず刺激した。
飲んで無いよ、と寝転んで掌をひらひらと見せる。カカシが酔う何て珍しい。いつも飲む時も、かなりの量を飲んでいる筈なのに酔う事は無かった。素面のわたしと対等に会話出来る位だったのに。

カカシの居るテーブルの真向かいに座り、抱いていた子猫を床に降ろす。子猫はくんくん、と鼻を動かして匂いを探っている。子猫はわたしを見上げ、また小さく鳴いた。不覚にもその可愛さに心は奪われてしまった。


「ヒロイン、」


名前を呼ばれた方を見ると、カカシは身体を起こしていてテーブルに頬杖を付いて居た。その目は眠たそうにとろん、としていて、誰でも一目見れば酔って居るのが分かる筈だ。


「その子の名前決めてあるんだよね」


カカシがにっと笑って指差す先には子猫が居て、何て付けたの?と尋ねれば、カカシ。と真面目な顔をして答えるから、思わず吹き出してしまった。


「はは、カカシ?」
「何で笑うのー」


カカシは笑われたのが気に食わなかった様で、膨れっ面をして見せた。カカシと言う名前で笑った訳では無くて、同じ名前を付ける事に笑っただけなのに、いじけるカカシを見たら可愛く見えて頬が緩んでしまった。

カカシ、おいでと言うと、にゃーと鳴いて近寄ってくる子猫。すると、人間のカカシも、なに?と言って近寄って来ようとする。


「そっちじゃ無い」


と、言い捨てれば、さも不満足気な表情をするカカシ。やっぱ同じ名前はやめる、とふてくされてしまった。子猫カカシはわたしの頬を小さな舌でぺろ、と舐めてにゃー、と鳴いた。


「くすぐったいよ、」
「…ずるい」


カカシの呟きに、子猫カカシとじゃれながら何が?と反応を返せば、カカシは急に立ち上がってわたしの隣にどさっと腰を掛けた。妬いたの?と少しからかうように尋ねれば、うん、と素直に返されてしまった。
カカシの大きな右手はわたしの頬を優しく包んで、綺麗な瞳はわたしを捉えて離さない。左手でマスクをくい、と下げるとカカシの整った顔立ちが露わに成る。そして少しずつその薄いピンク色の唇が近付いて来る。

と、思った瞬間、カカシが倒れ込んで来て、全体重がわたしと子猫カカシを圧迫させた。


「ちょ、カカシ…?お、重い…!」


子猫カカシはカカシとわたしの間で、にぃー!にぃー!と苦しそうに鳴いている。
やっとの思いで這い出ると、子猫カカシはわたしの腕を逃れ、カカシの背中に飛び乗ると、自分の腕をぺろ、と舐めた。
それを見届けてから急いでカカシの顔を覗き込む。


「カカシどうしたの?…寝てる」


すぅ、と整った息を漏らすカカシに呆れたわたしはカカシの顔をぺしっ、と軽く叩いてやった。

ま、仕様が無い、今回は許してあげよう。

愛しい恋人の寝顔を見つめて。
そして今宵も更けていく。








(あれ、何でオレお前んちに居るの?)
(え、て言うかその猫何?)
(…カカシ、ご飯だよ)
(にゃー、)

(え!?)



100201.

END.

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