「カカシ、待って」
「ん、何?」


彼女が珍しく我が儘を言った。
「カカシの手料理が食べたい」そんなことを言われたことは殆ど無くて、互いの部屋に行けば彼女が料理をするか、俺が自ら作るかどちらかだった。
彼女が照れたように頬を紅潮させ、俺に頼む姿に自然と口元が緩んだのが、口布のお陰で彼女には見付からずに済んだ。
頼まれたことがどうしようもなく嬉しくて、いいよ、と微笑って台所に向かった。
袖を捲り、冷蔵庫の中身を確認すれば、俺の好物の茄子が置いてある。
ならば、彼女に茄子の美味しい料理でも出してやろうと、浮かれた気分で茄子を冷蔵庫から取り出した。
しかし、急に俺の腕を掴んで制止する彼女に、思わず目を丸くして驚いた。


「それ…使うの?」
「え?だめ?」


彼女は、うーん、と唸って首を傾げて俺を見つめる。
そんな仕草も、つい可愛いと思ってしまう。
きっと俺の目には見えない眼鏡がかかっていて、彼女が何をしようが全てが愛しく見えてしまうのだ。
滅多に口には出さないのは、大人の余裕を見せたいからなのだろうか。


「茄子嫌い何て知らなかったよ」
「嫌いじゃないんだけど、ね」


ふ、と笑って未だに俺の腕を握っていた彼女の手を、優しく払う。


「けど?」
「何て言うか、食わず嫌いなの」
「はは、そう言うこと」
「あ!今馬鹿にしたでしょ!その年にもなって茄子が食べられない何て、みたいな!」


俺が鼻で小さく笑ったのが気に入らなかったのか、彼女は頬を膨らませ、一歩俺から距離をおいて声を張り上げる。
馬鹿にしてないよ、と言っても信じる様子は無い。
本人はどれだけ俺が彼女を好きか分かっていないのだろうか。
可愛い子程苛めたくなるって言うだろうに。


「はいはい、ごめんね」
「顔が謝ってなーい!」
「元々こんな顔なんだけど…」


指を差して怒る彼女のその指を、ぎゅ、と握って人を指差すなと軽くあしらう。


その後彼女を無視して茄子の料理を作り出すが、俺の横で、だめだよ、そんなの食べ物じゃないよとか何とか。
纏わりつく彼女を気にせずに、慣れた手付きで下拵えをして行く。
下拵えを終えたにも関わらず、未だにうう、とうねり声を上げたり、文句を言い散らす彼女を黙らせようと口布をす、と下げて顔を近付けて互いの唇を重ね、彼女の口を塞ぐ。
俺の行為が予想外だったのか、彼女は普段からも大きな目を更に大きく開けて言葉を失ってしまった。


「はは、やっと黙った」


口布を上げて、放心状態の彼女を放置して料理を作り出す。
ちら、と様子を伺えば、手で隠してはいるが顔を真っ赤にして照れる彼女に、簡単に俺の男心はくすぐられた。





「はい、出来たよ」


トン、と出来上がった料理を彼女が用意してくれたランチョンマットの上に綺麗に並べて行く。
けれど、料理を見た彼女の顔は引きつり、美味しそうだね、と無理矢理笑っているように見える。


「食べてみて」
「う、うん」


お互い向かい合って座り合い、箸を手に取る。
頂きます、と言った彼女は、茄子以外の物に箸を伸ばす。


「ヒロイン、」
「だってー!」
「絶対旨いから食べてみてよ」
「うう、」
「何なら口移しで…」
「自分で食べます」


俺の冗談をさらりとかわし、恐る恐る茄子に箸を伸ばし、口に近付けて行く。
一度俺を見て、不安げに眉を寄せると、ばくっ、と口内に放り投げる。


「どう?」
「……」


口をもぐもぐと動かし、眉間にシワを寄せて顔をしかめたまま、言葉を発さない。
ああ、これは不味かったのだと俺の脳は理解した。


「ごめん、不味かった?」


無理して食べなくていいよ、とお皿を下げようとすると、彼女の苦しんでいた表情は途端に笑顔になった。


「美味しいよ!」
「ほんと?」
「うん!」


料理をする俺を邪魔する程嫌がっていた人とは思えない位、打って変わって茄子を美味しそうに平らげて行く。


「お前、可愛いね」


思わず俺の口から零れた一言に、彼女は口内に含んでいるものを一瞬吐き出しそうになった。


「、可愛いよ」
「ちょ、照れるからやめてよ、」
「食べちゃいたい」
「バカ!」


小さな握り拳が顔面目掛けて飛んで来たけれど、そんなのぱし、と軽く受け取って、耳まで赤くして照れる彼女を更に愛しく感じた。




い誘惑



100920.


0915 / Happy birthday!

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