片想い歴一年の一途な想いは、いつか必ず届くと信じて来た。
長いなあ、何て自分では思わないけれど、友人には飽きられたように言われる。
毎日あの人の笑顔を想い浮かべては一人、嬉しくて思わず笑い出し、届かない報われないこの想いに涙零した。
それでも、遠くから見かけたとか、沢山話せたとか、挨拶した何て、どんな些細な理由でも、頬が緩くなる程嬉しくて楽しくて本当に幸せだった。
「かーかし!」
「…カカシ先生ね」
「別にいいじゃん」
夕方、日も暮れ始め、僅かに肌寒く感じる。
咲き乱れる木々は、緑が橙色に染まる。
道行く沢山の人混みの中、その後ろ姿を見つけて、息を切らして遠くから走って追い掛けた。
怠そうに歩く背中は、可笑しい位にいとおしい。
腕をくい、と引っ張って振り向かせれば、言葉使いを直される。
誰かが後ろから追い掛けて来たとか、普通なら分からない筈なのに、この人にはそんな普通は通用しない。
口を尖らして文句を垂れれば、カカシはいつものように大きな溜め息を吐く。
「先生って言ってもそんなに歳変わらないじゃん」
「お、それって褒め言葉?」
そう言って、優しそうな瞳を下げて笑う。
誉めてない。と一喝してやれば、そうですかと、わたしの頭に手を置いて、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
「やめて〜!」
「ははっ、」
カカシの手をぱ、と払いのけて、顔を見上げる。
見上げなければ視線の合わない、背の高いカカシにはいくら背伸びしたって届かない。
上から聞こえる低くて優しい声に、何度ときめかされて来たのか。
それが何故か時に、悔しい程腹が立つ。
いつもときめくのはわたしだけ。
カカシにとっては何でもない仕草にも過剰に反応してる。
「難しい顔してるよ」
そう言って、自分の眉間に人差し指を置いて小馬鹿にしたように鼻で笑う。
してないよ、と言い返しても、未だに面白そうに笑うのは反則だと思う。
笑っちゃうよね、この人の笑顔を見てると、意地悪を言われているのにわたしまで楽しくなるんだもの。
ふと気が付けば、いつの間にか人通りの少ない道に出ていた。
上を見上げて、優しく光る太陽を見つめて、その眩しさに目を細める。
わたしの横に立つ、カカシの様子が気になってチラと横に視線を泳がせれば、今まで見たことも無い表情で同じ様に太陽を見つめていた。
優しそうに、けれど何処か切なそうに、只、何かを愛おしそうに見つめる、そんな瞳をしている。
わたしは気付いてしまった。
違う。気付いていた筈なのに、今まで知らぬ振りをしていたことに気付いた。
カカシには、そう、カカシの瞳にはわたしが映ることは無い。
カカシの心には既に愛おしい人がいた。
「カカシ、すきだよ」
簡単な一言、されどわたしにとっては重い一言に、カカシは驚いて目を見開いて、その瞳にわたしを映した。
「カカシ…」
「分かってる」
もう一度、想いを告げようとすると、カカシは視線を下に落とし、冷たくも無く、温かくも無く、自分に言い聞かせる様に呟いた。
嗚呼、そうか。分かってたんだ。
やっぱりカカシには勝てなかった。
本当に、通用しないんだから、嫌になっちゃうよね。
「あーごめん、カカシ」
「…え?」
「今の、冗談だよ」
ビックリした?と笑ってカカシの肩をぽん、と叩く。
冗談な訳が無い。
この想いは本物に決まってる。
それでも、カカシを困らせたく無かった。
今までの関係が崩れると思うと、信じられない位怖くなった。
まさか、「分かってる」何て、言われると思ってもなかった。
ごめん、と言われるより、もっともっと残酷な言葉だった。
「じゃあね」
「え…ヒロイン!」
後ろを振り向いて、その場を立ち去ろうとすると、後ろからカカシに肩を掴まれた。
笑え。
せめて今だけは。
さようなら。と言う変わりに、笑って、時が来るまでは、この想いは外には出さない。
強くなってから、また貴方に伝えられる様になるまで。
辛いのはわたしだけじゃない。
片想い何て、大嫌い。
だけど、大切な気持ち。
忘れられたら楽なのかも知れない。
でも忘れたら、カカシとの楽しかった日々も忘れてしまう。
辛くても、カカシの一番じゃなくても、只、わたしはすきになった。
カカシがすきなのには変わりない。
「またね。」
諦めてないよ。
カカシの一番になれなくても。
次に会うときはちゃんと笑うから。
さようならは言わない100505.