「痛い」
「…は?」


上忍に昇格してから、昼下がりにこんなにゆっくりと飯を食うのはそうそうある事では無いが、暇な訳でもなく、只付き合わされているこの状況。
本来ならば任務の報告書をまとめるやら、下忍の修行に付き合わなければならない。
誰の家かも分からない屋根の上で、彼女が用意した握り飯をひたすらパクつく。
期待した中身は定番の梅干しで、米に付く塩と普通な感じが丁度良い。
まあ、普通に美味い。
四個目の握り飯に手を伸ばそうとした同時に、彼女が困惑丸出しの顔を向けてその一言を述べた。


「だから、痛いの」


彼女は自分の胸を押さえて訴える。
その単語と、行動を見れば誰でも"胸辺りが痛い"のだと認識するだろう。
だからこそあまり気にせず、一度止めた手を動かして握り飯をまた一口口に含む。
それでも一先ず何で?と尋ねれば、黙ったまま何も話さない。


「…何で痛いのか聞いてんだろ」
「興味無さ過ぎ!」
「はぁ?」


興味が無いかと問われれば、別に興味が無い訳では無いし、気になるからこそ何故だと問うているのに可笑しな女だ。
つくづく思う。
女と言う生き物は本当に厄介な生き物だと。
何も言わなくても理解しろと無理強いな事ばかりを口にする。

全く、年をとってもお馴染みの言葉を言わざる負えない。
随分昔に親父が言っていた、男は女が居なきゃ生きていけねえ、何て言葉はどうしたって納得いかない。
そりゃあ全てが分からない訳ではない。
けれど親父が、あんなにうるさいお袋と、人生を共にしようと決めた理由が未だに理解出来ない。
そんな自分は、年だけを取った幼いガキなままなのだろうか。


「シカマル」
「あぁ?」
「痛いよ、」


またそれかよ、と流石に面倒になって文句の一つでも繰り出してやろうかと視線を合わせれば、ま、の当たりでその言葉は喉の奥に引っ込んだ。


「ここが痛い」


彼女は柔らかな綺麗な頬を桜色に染めて、自分の胸を指している。
そうだ、本当は昔から知っていた。
ここが痛くなったのは随分久し振りだ。
締め付けられるようなこの胸の痛みを、いつから感じなくなっていた?
胸のもっと奥にある何かが、ぎゅ、と強く握り締められているような。

伝染病にでもかかったかのように、つられて柄にもなく照れるのは何かの間違いだと思いたい。
彼女の頬に自身がビクつきながらもそっと触れて、こう言ってやろう。


「じゃあ、治してやるよ」






(秘薬は既に此処にある)



100325.

END.

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テーマ「人外ファンタジー」
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