昔からじゃんけんだけは苦手だった。
幼い頃、かくれんぼの仲間に入れてもらっても、結局はじゃんけんで負けて鬼になる。
それは当然パターン化していて、勿論、それはどうにもつまらない事には違いない。
だから今でもずっと、じゃんけんには勝った事が無い。
嘘の様な話しで本当の話し。
じゃんけんで物事を決めるとなった時は、既に諦めて自らを否定して来た。
慣れてしまえば、たかがじゃんけん如き、問題は無い。



昔、不謹慎な事に、女子の間で意味無しの告白ゲームが流行った事があった。
まだまだわたしたちは青くて、面白半分に興味津々だった。
けれど、わたしにとっては楽しいゲームでは無かった。


「じゃんけんで決める?」
「あー、でもヒロインちゃんいるし…」
「じゃんけん意味ないね」


ほらね、またその目を向ける。
コイツが居たんじゃ、罰ゲームみたいなドキドキ感も無い。
つまらない、何故お前が居るんだ。
そんな濁った目。
もうこんなの慣れっこ。
どうせ、わたしはじゃんけんには弱い。
仮にも忍者を目指す者、動体視力も伸びない事は致命的。
分かってはいるけれどどうしようも無い。

結局その時は、わたしが告白ゲームをする事になった。
とは言っても告白ゲームに参加する事は初めてだった。


「カカシくん…ちょっといい?」
「え?ああ、いいけど」


その後、彼女たちに指名されたのは、あの、はたけカカシだった。
クラスも異なり、話す機会もあまり無かったその人物は、忍術学校の成績トップに立つ人間だった。
むしろ既に中忍クラスにもなっているとまで言われ誉め讃えられて居た。
わたしにとっては、手の届かない雲の上の存在で、容易に近付く事すら叶わぬ人だったのだが…


「えと、…すきです」


カカシくんを人気の無い所に呼び出して、単刀直入に用件を伝える。

こんな事、早く終わらせて帰りたい。

彼女たちは、草影からこっそりと覗いているため、しっかり監視されている。
断られるのが分かっているのに、わざわざ術を施して会話を聞く程でも無いのに。


「……」


カカシくんが黙って下を向いたまま動かない。
わたしは戸惑って、とりあえず声を掛けてみる。


「あ、あの」
「…オレも」
「え?」
「オレも、すき」


す、と顔を上げたカカシくんの頬は、確かにほんのり赤く染まって居た。
つられてわたしの頬も自然と赤く染まる。
途端に草影から、驚嘆の声を上げて立ち上がる彼女たちの虚しい姿が現れた。




そんな青い昔もあったな、と今では良い思い出に…


「ヒロイン、じゃんけん、ぽん」
「あ…!」
「はい、負けね、飲み物買って来て」


良い思い出になる訳が無い。
年を取ったわたしは、じゃんけんにも勝てる日が来る訳も無く、カカシという男に良いように使われていた。
不意内のじゃんけんだからと言って、負けた事実は変えられない。


「もう、分かってるよ」
「素直で宜しい」


あの告白から数十年、カカシとはいつも一緒にいる。
だからと言って、わたしたちが付き合っている訳でも無く、カカシが別の女と付き合っているのを見た事もある。
何となく、あの話題にはお互い触れる事無く過ごして来た。
どちらにせよ、今更触れられても困るだけなのだが。
カカシの答えが真意なのかは謎のままだ。

買ってきたよ、と言って飲み物を渡せば、カカシは何か悪巧みでも思い付いた様に、に、っと笑って手を差し出した。


「じゃんけん、ぽん」
「あ、また負けた…」


慣れたとは言え、毎度負けるのも如何なものか。


「負けた人は、勝った人の傍にずっと居る事、分かった?」


そう言って、頬をうっすら染めるカカシの顔は、昔の面影が映って見えた。







100311.

END.
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